トップマネジメントの役割からみる経営革新のポイント

取締役 渥美昌伴

経営革新への期待

激しくかつスピーディーに変化している企業を取り巻く環境が、多くの中小企業に経営の革新を要請しています。そして、社員への意識変革、行動変革を求めています。社員一人一人の変革が無いところに経営の革新など起こらないことを考えれば当然の期待です。これらのことは、革新という多くの困難を伴う取り組みを進めていくという覚悟が必要になってくることも意味します。
そしてこの覚悟は、経営ビジョンの再構築という形で表現され、経営革新はスタートし、経営ビジョンを表現するための手段である戦略の転換、再構築、そして設定された戦略が実施し易いような組織構造や組織の運営ルールの再設計、組織風土の転換を図っていく、これら一連の取組みが経営革新の活動といえます。
そこで今回はこの経営革新の一連の活動を進めていくうえでのポイントをトップマネジメントの役割という視点から考えてみたいと思います。

意思の伝達

経営ビジョンを策定するということは、自社をどのような会社にしたいのかを表現することにほかありません。環境変化の方向性をつかみ、市場顧客の期待を把握したなかで自社の今後の方向性や、新たな事業分野を見極めるということです。
そのためには、環境変化の方向性をつかむ情報の収集活用が必要になります。また経営理念を再確認し客観的な目を持つことが求められます。このように考えますと、経営ビジョンを構築できる人材はトップマネジメントをおいて他に存在し得ません。これは構想を練り、最後に意思決定し、ビジョンとしてまとめあげるのはトップマネジメント自信でなければならないという意味です。
構想を練る過程においては、社内外の人材をフルに活用していくことは当然おこなわれるべきものです。また社内プロジェクトとして経営ビジョンを寝ることは多いに意味を持ちますし、組織目的となるビジョンを組織メンバーに正しくかつ強く理解頂く一つの取り組みとしての意味も大きなものがあります。
ただ、最後にトップマネジメントの意思として決定し、それをトップマネジメント自身の言葉としてまとめ、自身の言葉で全組織構成員へ伝えることはトップマネジメント自身が決して放棄することの出来ない役割であることは言うまでもありません。

整合性の確認

経営ビジョンが再構築されるということは経営の新しい目標が設定されたことを意味します。従って、この新しい目標である経営ビジョンを実現する手段としてしての戦略展開も再検討されるのは当然のことといえます。このことは、言い換えれば経営ビジョン達成に向けた中期経営計画の策定であり、その出発点は、経営ビジョン達成のためにやるべきこと、つまりこれを成し遂げれば達成できるという戦略課題を設定することから始まります。
戦略課題が抽出されると、次はこの戦略課題を達成するための手段として、もう一つ具体的な施策を練っていく事が必要になります。そして、その施策一つ一つが整合性のとれたものであることが求められます。
そのポイントは以下の2つです。
(1)戦略課題の達成レベルの設定
(2)戦略課題から部門課題への展開
われわれの行動や取り組みは、目標レベルによって変化します。現有能力で達成可能な目標を設定すれば、従来の行動を変える必要はありません。しかし、高い目標を設定すれば何かプラスアルファの取り組みが必要となります。従って一つ一つの戦略課題について、その達成レベルつまり、目標値を設定することがおの手段を考える上では不可欠になってきます。
また、戦略課題をもう一つ具体的な施策に落とし込んでいくには各部門として、何を行えば良いのかを明確にしていくことになります。一つの部門だけが取り組む課題というものもありますが、多くは各部門が関わりあってその課題が達成されます。また、その課題を達成することにより、他部門の状況に影響を与える場合もあります。そうであれば、その課題が各部門にどのような影響を与えるのかを先取りして、そこから自部門の課題を明確にしておく必要があるわけです。
このような形で戦略課題から部門毎の課題へと落とし込むことが可能になり、かつ一つ一つの取り組みが経営ビジョン達成に向けた活動として整合性をもつことになります。これらの取り組みは、思考の作業といえます。トップマネジメント自身がこの思考作業をリードし、整合性がとれているかチェックすることがもう一つの役割といえます。

進歩への関心

中小企業の経営が革新されるかどうかは経営革新への取組みが確実に実行されるかがポイントになります。経営ビジョンや中期経営計画が策定されても、それらを行動に移さなければ何も意味がありません。ここに、進捗管理の重要性があります。計画という起動に対して、動かないというズレが生じたり、違う方向へ動いてしまったというズレを軌道修正していくことが大切になるわけです。具体的には以下の手順で進められます。
(1)計画通りに行動したか
(2)行動内容は充実していたか
(3)計画の妥当性はどうか
進捗管理はまずは計画通りに活動したかどうかの確認から始まります。計画通りに行動していなければ、その原因を明確にし、そこに手を打つことが必要となります。この場合、計画通りに実行されない理由としては、大きくは物理的なものと気持ちの問題とがあります。 しかし、気持ちの問題によって行動されない場合が多いように思われます。つまり、魂の入った、血のかよった、自分の計画になっていないわけです。抜魂された計画では人は動きません。そして、入魂するには何故この目標が必要なのかを理解することと、自分でその目標達成の手段を考え抜くことが必要です。
次は計画通りに動いても目標が未達の時です。この場合は行動内容の充実度合いを確認してみる必要があります。例えば、新規訪問をするにしても、雑談しかできないのと具体的な商談をしてくるのとではその結果に大きな違いが生じます。行動内容の充実度は担当者の能力に関係している場合が多いように思われます。つまりここに一人一人の教育テーマが存在しているともいえます。当初の計画に甘さがあったり、制約条件が大幅に変化しているかもしれません。
これらのことは、目標意識を強く持ち続けるということかもしれません。人はどうでもよいことは気になりません。トップマネジメントが進捗を気にしないものは、メンバーも進捗を気にしません。その意味で進捗管理を徹底させていくことはトップマネジメントの役割の一つといえます。

参考文献
「年度計画をすいすい立てる本」石黒重光著 あさ出版
「事業計画書の書き方まとめ方」 増木清行著 ぱる出版
「経営革新のシナリオ」 関根次郎著 東洋経済新報社

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