コンピテンシーの導入が広まる

株式会社MELコンサルティング 常務取締役 渡辺晴樹

コンピテンシーは、1970年代にハーバード大学の行動心理学者であったD.C.マクレランドによって提唱された能力概念で、米国国務省との幅広い共同研究がきっかけになっている。マクレランドは、優れた成果を上げている外交官から直接、外交官に必要とされる要件を導き出すことを考え、分析の結果、優れた外交官には、ある共通した行動パターンが認められ、この行動をとる能力を備えた人材を選抜するという方法を思いついた。 その研究成果から、マクレランドは、「高業績者は知識やスキルより動機や性格など心の内面を原動力とする行動により成果を上げている」と唱えた。

その後、弟子に当たるライル・スペンサー、リチャード・ボヤツィス、ダニエル・ゴールマン等によって、実際に活用可能な形にまとめられ、1990年代の米国のビジネス社会において導入されるようになった。米国でコンピテンシーが導入されるようになった背景には、1980年代に行われた大規模なリストラがある。 1990年代の米国企業の重要な経営課題は、「いかに企業を変革していくか」であり、戦略課題を実践する社員の育成・動機づけにコンピテンシーの考え方が重視されるようになった。また、コンピテンシーは、社内で成果をあげている具体的な行動事例を知的財産として整理できるので、競争に勝つための手法として活用されるようになった。

日本で本格的にコンピテンシーが導入されるようになったのは、1999年頃で、採用・昇進・昇格・能力開発など一部の大企業で活用されるようになった。その後、コンピテンシーの導入は着実に増加傾向にあり、社会経済生産性本部の調査によれば、1999年度に5.7%であったものが2001年度には11.2%とほぼ倍増している。

コンピテンシーは、高業績者がある目標を目指すとき、潜在部分の基本的な動機から始まり、顕在部分の知識・スキルを使って成果を達成する行動特性と説明させる。ヘイコンサルティンググループ(行動心理学者のマクレランドと関係の深い米国コンサルティング会社)は、「高い成果を生み出すために、行動として安定的に発揮されるべき能力」と定義している。 この能力について、良い仕事をしている人が発揮しているあらゆる行動特性を具体的な行動事例から把握・分析することができるとしている。

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