状況判断力を磨く
SIT(Situated Intelligence Training)の取り組み

マーケティング本部 越山修

はじめに

昨今の企業研修では、知識供与型の研修形式を避け、受講者にグループワークの運営やプレゼンテーションの作成などの裁量を委譲する形式が主流となっている。アクションラーニングとよばれるこの手法は、グループワークやディスカッションに多くの時間を割き、講師と受講者、または受講者同士のコミュニケーションを重視した研修手法である。これは、学校教育にしばしばみられる、教師から生徒への一方通行の知識供与ではなく、むしろ受講生から講師へのフィードバックや、受講生同士のディスカッションを中心とした双方向のやり取りに特徴がある。

アクションラーニングの具体的な取り組みは様々で、ビジネススクールなどで活用されるケーススタディなども広義にはそのひとつに数えられる、一方、弊社のコンサルティング業務から派生した研修サービスも、アクションラーニングを古くから取り入れている。中でも、中期経営計画策定システムを用いた「経営計画策定研修」や、企業経営を疑似体験する「経営シミュレーション研修」などは、コンサルティングと研修の双方の側面を持つエデュサルティング(Education+Consulting)とも呼ばれ、アクションラーニングの特徴を併せ持っている。

教材紹介

これらの研修とともに、弊社で最近力を入れているものが状況判断力を磨くSIT(Situated Intelligence Training 以下SITと省略)である。本稿では、SITの代表的な教材である「NACS2005 問題を突破するコミュニケーション」[3]を紹介するとともに、研修におけるSITの活用方法を紹介する。SITの特徴は、図1に示すように、知識やスキルを教えるものではない。受講者が社会人として一定の経験を持つ場合には、自身の知識や経験をもとにした、状況判断力や問題解決能力を啓発し、一方、これまでの社会経験が少ない場合には、これからの社会経験の中で想定されうる、危機対応能力や問題把握力を啓発する[1]。 「NACS2005 問題を突破するコミュニケーション」を開発した東京工業大学の吉川教授によると、これらの能力を“文脈適応力”や“状況判断力”と述べ、SITの効果としている(図1参照)。SITは教育工学や認知科学の分野では、現在も研究が進められているテーマであるが、弊社でも実務での活用、とりわけ企業研修においてSITの発展に協力している。

図1.研究の適用範囲

この「NACS2005 問題を突破するコミュニケーション」のテキストは、図2にも示すように、全ページマンガで構成されている。その中身も、一見すると“IT企業におけるプロジェクトマネジメント”のHowto物と錯覚しやすいが、実態は、IT企業だけの問題ではなく、プロジェクトマネジメントやコミュニケーション、マネジメントなど複数のテーマが埋め込まれている。 物語の登場人物もまた、多様なバックグラウンドを持ち、読み手に一定の社会経験があれば、それぞれの登場人物のセリフや表情が幾通りにも解釈ができるように設計されている。このように読み手の解釈の幅を広げ、多様な視点で捉えられるようにマンガという表現方法を用いたと開発者の吉川教授は述べている[1]。

図2.「問題を突破するコミュニケーション」

活用方法

SITを使った研修として、リーダーシップトレーニングや、管理職研修、さらには次世代リーダー育成などの活用が考えられる。これらのマネジメントやリーダーシップを啓発する階層別研修は、さもするとマインド重視型(図1左側参照)になるが、これらのテーマでもSITは有効に働くと考えられる。 使用例として、弊社では図3のような「人間関係力(マネジメント+リーダシップ)」のスケジュールを提案している。このスケジュールの特徴は、一般的なマネジメントの知識である、コミュニケーションやリーダーシップ、部下育成などの情報提供をするとともに、自社ケーススタディやEQ(Emotional Intelligence Quotient)アセスメント、問題を突破するコミュニケーションを活用し、最後にディブリーフィングや自部門の方向性を検討する。

図3.研修スケジュール

展望

現在、SITは異業種交流会やビジネススクールなど若年層の危機対応能力を高める活用事例が多いが、これから企業研修でも導入が進みそうである。紹介したIT企業のプロジェクトマネジメントのシナリオ以外にも、異なるテーマのシナリオを増やしていくことで、様々な研修や知識共有ができそうである。今後も、企業研修での活用を増やすとともに、各種セミナーやメディアを通じて、これらの取り組みを報告するつもりである。

参考文献

[1]吉川厚(2007)「獲得した知識を活用するトレーニング:Situated Intelligence Training」、『システム/制御/情報:システム制御情報学会誌』,51(2),102-108.

[2]中原淳・荒木淳子・北村士朗・長岡健・橋本諭(2006)「物語を通して学ぶ」、『企業内人材育成入門』,ダイヤモンド社,44-51.

[3]NACS2005(2005)「問題を突破するコミュニケーション」,NTTデータ.

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