リーダーの「言霊(ことだま)」が人を動かす

株式会社MELコンサルティング シニアコンサルタント 太田義則

「Yes We Can(やれば出来るんだ)」「Change Has Come(変革の時がきた)」「I have a dream(私には夢がある)」「私はあなたの大統領になる。」「この米国には白人、黒人、アジア系、ラテン系の区別はない。あるのは合衆国アメリカ人だけだ。」「この先の道は険しい上り坂だ。1年や1期の任期ではたどり着けないかもしれない。しかし、今夜ほど希望に満ちたことはない。約束しよう!私たちはやり遂げる。」 これらは、ご存知の通り、11月9日アメリカ次期大統領選で民主党のオバマ上院議員が共和党のマケイン候補を大差で破り、次期大統領に選出されたときの演説です。 人種老若男女を問わず、すべての人の心を揺さぶる感動的な名演説です。この演説で涙ぐんだ聴衆は、まるで催眠術にかけられたように歓声をあげ続けました。

その昔、松下幸之助翁が病床にあるとき、人事担当の幹部が、「会社の業績が低下したので社員を解雇しましょう」と進言してきました。その時、松下幸之助翁は床の上で涙を流し、「誰も解雇しません。皆家族やないか。」と言ったといいます。それを聞いた社員は一念発起してがんばり、業績を盛り返したそうです。

平成13年5月場所、当時の横綱貴乃花関がひざを故障したにも係わらず、千秋楽の大相撲に勝ち優勝を成し遂げました。その時の表彰式に立ち会った元小泉首相は、土俵上で「よくがんばった。感動した。」と言いました。国技館は割れんばかりの大拍手でした。単に表彰状を読むだけでは感動は生まれません。自分の言葉で簡潔明瞭に語るから感動があるのではないでしょうか。

ある経営者が旅行に出かけ、某美術館に立ち寄った際の受付の人の素晴らしい言葉が今でも忘れられないと話してくれました。 その日、午後4時20分に美術館に入ろうとしました。「いつ閉館ですか?」と尋ねると、「宍道湖に夕日が真っ赤に染まり、その夕日が落ちた時、閉館となります。それまでは開いております。」との返事でした。

言霊(ことだま)という言葉があります。言霊とは、「言葉に宿っている不思議な霊威(広辞苑)」のことです。

リーダーたる人物が全社員にどんな言葉を投げかけるのか、発する言葉の一つひとつが、簡潔明瞭、分かりやすく、借り物ではない自分の“言葉”として訴えることが大切です。リーダーは、熱き想いと考え方、成し得たときに共に味わう達成感、喜びの“ビジョン”を、社員やお客様がワクワクする言葉で伝えているでしょうか。言葉が「言霊」となれば、組織の結束力が強まってくることは確かです。
会社が「かわる」(変わる、代わる、替わる)ということは、どのように“かわる”ことがよいのか全社員一人ひとりが「わかる」(分かる、解る、判る)ことです。それには、リーダーを中心にタテ・ヨコで本音の話し合いが必要であり、話し合いをする頻度を多く持つ「対話」が重要です。

言葉を「言霊」とするためには、リーダーには4つの姿勢が求められます。

  • (1)担当している仕事・業務に夢と愛情を持ち、熱く取り組んでいる。
  • (2)いつもプラス発想で決して諦めず、粘っこく取り組んでいる。
    言葉を吐く。「吐く」は、口から出る言葉には、+(プラス)の言葉と、−(マイナス)の言葉があります。常に+(プラス)の言葉、「できます、やれます、やってみせます」を出し続け取り組めば、いつか、「叶う」(口にプラス)という漢字に生まれ変わるものです。
  • (3)人を大切にし、人を育てている。
    このリーダーといっしょに仕事をしたい、このリーダーの下で仕事をしたいと思われているか。企業が勝つ条件は「人で勝つ」「人材を育てているか」です。人間とは、人に教える時に最も成長すると言われています。人で差をつけ、人を動機づけ、一人ひとりの部下を成功者にすることです。
  • (4)自分自身が人生・仕事を楽しむことから、周りを楽しませることができ、自分自身が幸せでないと周りを幸せにすることができないことを自覚して行動している。

今日のような厳しい環境の時にこそ、組織にとっては、社員を巻き込み、一丸となって状況を打開できる「相互信頼の人間関係」が必要とされます。どんなに苦しくともリーダーは白旗を揚げないことです。どんな危険信号が出ても、リーダーが「もうダメだ」と思わない限り会社はそう簡単に潰れるものではありません。
経営も人生も苦境に立たされることがしばしばあって当たり前です。しかし、悲観を楽観に切り替えるところに転機はあるものです。今日の優良企業は不況を迎えるごとに成長していることだけは確かです。「ピンチはチャンス」です。

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