田中さん、これやっといて。
〜社内コミュニケーションと仕事依頼時のフェアプロセス〜

商品開発本部 青木美枝

◆あるビジネスシーンの会話

【会話シーン1】
山本部長 「田中さん、これお昼までにやっておいて」
田中さん 「はい、承知いたしました」
 →本音 (もぅ、今はとっても忙しいのに、これくらい自分で出来ないかしら)
山本部長 「宜しく頼んだぞ」
 →本音 (んっ?ナンダそのふてくされた態度は、なまいきな奴だ)
【会話シーン2】
佐々木さん 「星野さん、私を助けてくださると大変嬉しいのですが・・・、恐れ入りますけど私に、お時間をいただき、ご協力を願いたいのですが・・・」
星野さん 「はい、何でしょう」
佐々木さん 「こちらのチェックをお願いしたいのです」
星野さん 「はい、了解いたしました」
 →本音 (えっ?数分で終わる作業じゃない。あんな頼み方をするから、手間のかかる仕事かと思って心の準備をしていたのに、肩透かしをくらった気分だわ。)
佐々木さん 「助かりましたぁ、ありがとうございます」
 →本音 (僕がこんなに丁寧にお願いしているのに、機嫌が悪そうだなぁ、怖い怖い)
【会話シーン3】
和田課長 「松原く〜ん、これ手伝ってくれないかな?今忙しくて大変なんだよ」
松原君 「了解しました」
 →本音 (僕が困っている時は助けもしないのに、こういう時だけいつもそんな言い方で腹がたつな)

このような仕事の依頼シーンをよく目にしますが、お互いがすれ違ってしまい、良い仕事をしていくための雰囲気が損なわれているように感じます。
自分はこんなやりとりはしないし、もっと上手くやっていると思っている方、どうでしょうか。

そこで、質問です。
あなたが仕事の依頼をした時、相手は快く引き受けてくれますか?
あなたが困っている時、相手は手を差し伸べてくれますか?

どうすればスムーズに、仕事の依頼者と仕事の受け手が協力し合い、気分よく仕事を進めていくことが出来るのでしょうか?
仕事の依頼イメージ

仕事を依頼する際のポイントは以下の2つが大きく影響すると考えます。
・コミュニケーション
・フェア・プロセス
これら2つを念頭に置いて行動するだけで、ずいぶんと効果が出ます。

社内コミュニケーション

あなたは、社内でのコミュニケーションは十分にとれているでしょうか?
コミュニケーションと仕事の相互関係は、何も外部、顧客との間だけに限りません。
社内でも同じように大切なこと。
仕事の依頼と日常のコミュニケーションは相互関係にあります。
・その人がおっちょこちょいなのか?
・どういうところにこだわりをもって仕事をしているのか?
・どういう情報を必要としているのか?・・・等々
十分なコミュニケーションがとれていると、仕事の受け手は、依頼者の事をよくわかっているので、依頼者の事を考えながら、帳尻をあわせつつ、仕事を進めようとします。
その結果、ミス等も防ぐ確率が高くなります。
逆にコミュニケーション不足では、仕事の受け手は依頼者に関心がないために、機械的な仕事となり、プラスαの仕事はともかく、万が一依頼者がミスを犯していても、それを見逃してしまうこともありえます。
また、困った時に仕事を依頼しても断られる可能性も高いでしょう。
それゆえ、日常の社内の会話にいたるまで、コミュニケーションは侮ることなく密に行ったほうが依頼側も受け手側も円滑に仕事を行うことができますし、モチベーションも上がるものなのです。

■仕事依頼時のTPO

・相手が忙しいのにもかかわらず自分優先で事を運ぼうとしない。
・仕事を頼む時だけ、猫なで声で頼んだりしない。
・当然のようにまるで女房にでも言うかのように頼んだりしない。
・妙にへりくだりすぎな頼み方をしない。

これらは何も難しい事ではありません。
日常のマナーにTPOがあるように、仕事依頼時のマナーにもTPOがあります。
その時の状況が読めない???そんなことはありません。日頃の円滑なコミュニケーションにより、誠実さと信頼関係が築かれていれば、自然に読めてくるものです。
そして信頼関係が築かれていれば、どんなに忙しくても相手を信頼し、自分の仕事を後回しにしても助けてくれることでしょう。

■気分よく仕事をしてもらうには?

人は気分がよい時には、情報を効果的に吸収し、創意を発揮して、速やかに仕事を対処すると言われています。 それでは、気分よく仕事をしてもらうにはどのように仕事を依頼すればよいのでしょうか?

最近、行動神経科学における発見で、脳には「ミラー・ニューロン」というものがあるということが分かりました。
これは他者の行動を模倣する、鏡のような神経細胞だそうです。 人のしぐさから、その感情の動きを察知すると、ミラー・ニューロンの働きにより、相手にも同じ感情が湧き上がってくるのです。
また、ミラー・ニューロンの一部は他者の微笑みや笑いを感じ取り、それに釣られるようにして笑顔をつくることだけを役割としている部分があります。
ある研究によると、業績の高いリーダーが部下たちの笑いを引き出す回数は、平均的なリーダーの三倍だったといいます。

仕事の依頼者も受け手も、お互い気分よく仕事をしたいものです。 ミラー・ニューロンを積極的に利用し、笑顔や明るい表情で仕事の依頼をしましょう。

■雑談は必要なコミュニケーションツール

雑談もコミュニケーションのひとつです。
雑談から、思わぬ掘り出しものがあるかもしれません。
gooリサーチによると、
「社内でのちょっとした雑談などのコミュニケーションが仕事に役立ったことがあるか?」という質問に対して、65.7%の人が仕事の役に立ったと答えています。
みなさんも、考えがまとまらないときに、人に話を聞いてもらうだけで考えがまとまったりしたという経験はありませんか?
また、こんなのもいいんじゃない?とアイデアの糸口をもらったりしたこともあるかもしれません。
「一円を笑う者は、一円に泣く」ならぬ「雑談を笑う者は雑談に泣く」ですね。

仕事依頼時のフェア・プロセス

【依頼シーン1】
畑中さん 「菅野さん、この企画書の体裁を整えてくれないかい、よろしくね」
【依頼シーン2】
武藤さん 「菅野さん、この間言っていた会社の社長さんとのアポイントがようやくとれたんだよ。
それで今度、この企画書を持っていくんだ。この企画書が通れば、初の受注だよ。
そこで、この企画書の体裁と内容のチェックを頼むよ。
これが先方さんの会社案内で、こんなイメージで企画書の体裁を考えて欲しいと思っているんだけど、どうだろう?」

畑中さんに比べ、武藤さんのような仕事の依頼をされたら、「ちょっと頑張ってみようかな?」、 「工夫してよりよい成果物を出そうかな?」と思いませんか? それは、武藤さんの依頼には「フェア・プロセス」があるからなのです。

フェア・プロセスとは、たとえ結果が自分の意に反するものでも、プロセスが公正であれば納得できるというものです。
なぜなら、人は一個人として認められたいものであり、結果が納得できても、その過程(プロセス)が公正でなければ、不満、または不信感を抱くということだからです。

世界的に大ベストセラーとなった「ブルー・オーシャン戦略」の著者であり、INSEAD教授のW.チャン・キムとレネ・モボルニュは、フェア・プロセスには3つの原則があると言っています。
1.エンゲージメント
相手に影響が及ぶ意思決定について、巻き込み、意見を求め、それをアイデアや仮説を交換し合うこと。これは、相手の存在について、また相手のアイデアを尊重するという意思表示である。
2.説明
なぜ、このような意思決定に至ったのかを説明し、相手を納得させること。
3.具体的な期待
目的や目標が何かを知らせ、だれが何に責任を負うのかを理解させる。「自分達は何を期待されているか」を具体的に理解した時、自分の仕事に集中出来るのである。

先ほどの武藤さんの例を見てみると、
「この企画書の体裁と内容のチェックを頼むよ。これが先方さんの会社案内で、こんなイメージで企画書の体裁を整えて欲しいと思っているんだけど、どうだろう?」
→エンゲージメントされていることにより仕事の受け手である菅野さんは、自分のアイデアを聞き入れてくれそうだと感じ、
「そういえば、先方の社長さんは随分年配と聞いていたから、文字は大きくしてみたらいいかな。ここは文章よりも、図解のほうが分かりやすそうですね。そうそう、訪問後の社長宛てにこんな手紙を一筆書いたらどうでしょう?」
このように自発的なアイデアを出してきそうです。

「この間言っていた会社の社長さんとのアポイントがようやくとれたんだよ。
それで今度、この企画書を持っていくんだ。この企画書が通れば、初の受注だよ。」
→説明と具体的な期待がされているこの言葉を聞き、菅野さんは、
「あんなにアプローチしていた社長さんとのアポイントがやっととれたのね。良かったですね。初の受注になりそうですし、ここは決めたいところですね。バシッと決めるためにも私も頑張ります」
と責任とモチベーションにも繋がります。

そしてこの会話の中では、アイデアを出し合い、依頼者も刺激を受け、それならばこれはどうだろう?となり、シナジー効果も望めそうです。

フェア・プロセスとは、信頼とやる気を醸成するものであり、その結果として自発的な協力が期待できます。

あなたも明日から、仕事の依頼の2つのポイントであるコミュニケーションとフェア・プロセスを心がけ、業務の効率と職場の雰囲気を活性化させてみませんか?

振り返ると、私が今までにお会いした中で、仕事がデキル人はそういった細やかさを忘れず、誠意と努力を怠らない人がほとんどでした。

※参考資料
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2008年 08月号
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2009年 02月号

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