プレイングマネジャーのあり方・育て方

常務取締役 山中宏美

はじめに

プレイングマネジャーとは、プレイヤーでありマネジャー(経営者・管理者・監督者)である方々です。皆様はプレイングマネジャーと聞くと、誰を思い浮かべますか。

例えば、「代打、オレ」で有名になった元ヤクルトの古田敦也さん。彼は、名プレイヤーであり、プロ野球の監督でした。 はたまた、現場で壮絶な最期を遂げたプロレスリング「ノア」の三沢光晴さん。彼は、メインイベンターでありながら、プロレス団体の社長でもありました。

プレイヤーなら、例えばイチロー選手のようにプレーに専念し歴史に記録と名を残します。監督なら、かつての西本・仰木・古葉監督のように、選手時代はさして記録と名を残さなくても監督専業して記録と名を残しました。
プレイヤーで成功、あるいはマネジャーで成功というケースはあっても、プレイングマネジャーで成功というケースはあまりありません。

プレイングマネジャーと一言で言っても、その役割・責任は多く、苦悩の連続です。私は中小企業のコンサルティングを通じて、プレイングマネジャーになって体調を崩してしまった人々をたくさん見てきました。かくいう私もプレイングマネジャーとして疲労のあまり体調を崩して入院をしたほどです。

昨今、企業では、優秀なプレイングマネジャーが求められています。本稿では、会社にとって優秀なプレイングマネジャーをどう育成していくか、また、プレイングマネジャーはどう能力を向上していくかについて考察していきます。

プレイングマネジャーの苦悩

営業・技術・設計・製造業務を問わず、プレイングマネジャーから出てきた苦悩を整理してみます。

  • 個人プレイヤーとしての目標・課題があり、その対処で精一杯であり、そのため部下と接する時間が少なくなる。
  • 部下のトラブルを自分が解決しなくてはいけないため、自分の課題解決を後回しにせざるを得なくなる。
  • 部下の成長が遅く、いつまでたっても任せられない。
  • 部下の目標・課題の解決を、結局は自分がやらねばならない。
  • 部下に任せても、「報告」「連絡」がなく「相談」も遅いため対処し教える時間が持てない。
  • 自分では率先垂範し教えているつもりだが、部下には何をやっているか理解されない。
  • コミュニケーションの頻度が少ないため、「報告」「連絡」「相談」も遅くなりがちで部下を信頼しきれない。
  • コミュニケーションの頻度が少ないため、部下も自分のことを信頼していないようだ。
  • 時間外でコミュニケーションを取ろうとして、お酒の場などに誘っても断られる。

等が、どの業種どの中小企業に行ってもでてくる代表的なものです。このようなことを繰り返していると肉体的にも精神的にもストレス・疲労がたまってくることになります。

なぜ組織にとってプレイングマネジャーが必要か

大抵の組織は、プレイヤーとして実績を上げ、組織に対しての貢献度が高いプレイヤーをマネジャーにします。これは、組織の指示命令系統を機能させるためには順当なことです。プレイヤーとしての、専門性・貢献度が低い者を上位職につけてもメンバーからの納得性は低くなるからです。
ただ、ここに問題が発生する要因が内在します。

営業職のように対人関係力が大きく影響する職種の場合はメンバーとのコミュニケーション能力については大方判断できます。しかし、研究職・設計職・生産現場に携わる職種等については、専門性の知識・技術に関連する比率が高く一般的には職人気質の人が多く見受けられます。この場合部下になるメンバーもその傾向が強いため、チームとして上司のリーダーシップも部下のフォロワーシップも発揮されにくいという事になりかねませんから一層の注意が必要です。このような点に配慮しながら、プレイングマネジャーに力をつけてもらう必要があります。

プレイングマネジャーの役割と能力

プレイングマネジャーには大きく3つの役割があります。

  1. 自チームの目標・課題達成と問題解決
  2. 自チームのメンバーの集団維持機能を果たす
  3. 個人目標の達成

さらに、役割を行動レベルで表現すると以下のようになります。

自チームの目標・課題達成と問題解決

  • 率先して行動する
  • メンバーの注意を目標に集中させる
  • 問題を明確にする
  • 情報を提供する、提供を求める
  • 創意的意見を出す
  • 仕事の質を評価する
  • ヒト・モノ・カネを組織化する
  • 資源と機能をまとめる

自チームのメンバーの集団維持機能を果たす

  • 対人関係を円滑にする
  • メンバーを激励する
  • 少数意見の発言の場を与える
  • 自主性を発揮できる状況をつくる
  • メンバー相互の支援関係をつくる
  • メンバー間の調和を図る
  • 共感的雰囲気をつくる

個人目標の達成

  • どんな時でも率先垂範で個人目標を達成する
  • 絶えず自己研鑽に励み個人能力の向上に努める
  • 重点集中(優先順位付け)を行い、「こなす」から「さばく」ことができるようになる

プレイングマネジャーは現場力を高める人

プレイングマネジャーの役割を一言で言ったら、「現場力を高める人」であると言えます。現場力を高めるとは、以下の3点を実践して部下からの信頼を高めることです。

業績を上げる

現場での信頼獲得の第一要因は、プレイングマネジャーが業績を上げる事です。そして結果を出す事です。上司への信頼は、業績を上げる能力に基づいています。

真摯である

メンバーは言行一致の上司を信頼します。言葉において正直であり、行動において一貫性が求められます。真摯さの欠如は、自己本位、誠実さの欠如、動機不純を意味し、メンバーの支持を得られません。

人を大切にする

人は好意を持ってくれる者、理解してくれる者、期待に反する事のない者を信頼します。人は信頼する相手が自分のことを考えてくれる事を期待します。人を大切にする事は、期待ニーズに応える事です。

プレイングマネジャー養成のための研修内容

プレイングマネジャーは、以下の点についての理解を深めスキルとして身につける必要があります。

  • 組織についての理解とプレイングマネジャーの役割についての理解を深める。
  • プレイングマネジャーの行動内容を理解する。
  • 上司に対しても部下に対しても、迅速な報告・連絡・相談についての実行力を身につける。
  • 接する時間が少ない中で、部下の育て方を理解実践する。
  • 限られた時間においての、部下との信頼感の醸成と動機付けについて理解し実践する。

おわりに

今後、どの業種・組織においても益々プレイングマネジャーの活躍が必要になっています。組織の効率性を考えれば必然的です。現場の今を熟知した正確な情報・判断が求められるからです。組織のスピードを増すためには必要不可欠なことです。プレイングマネジャーのレベルが組織のレベルを決定する大きな要素になることは間違いないことです。そのためには、プレイングマネジャーの能力向上は早くから着手した方が良いと言えます。

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