生産性改善への取り組み - 今の働き方をチェックする -

株式会社MELコンサルティング 代表取締役会長 安田芳樹

利益なき多忙

リーマンショック、大震災と度重なる事態に仕事が激減している企業は多い。しかし仕事量(受注量)は減っても必ずしも個人の仕事量(業務量)は減っていない。むしろ小ロットへの対応やそれに伴う段取り回数の増加、得意先からの要望の多様化など手間や間接業務は増えているのが現状だ。したがって、受注量の減少で変動費は減少するが、固定費は殆ど削減できていない。受注量が減っている今、これでは企業は持ち堪えられない。今こそ受注量の減少に見合う生産性を高めることを工夫したい。

生産性の基本は「人の働き方」

製造業であれ流通・サービス業であれ、人の働き方(動き方)は生産性と直接連動する。現在の人の働き方をチェックし、“価値に結び付かない動き”を見つけて減らす・なくすことを急ぎたい。仕事量が減っても生産性を落とさないために、製造業を例にとってチェックしてみよう。

時間生産性をチェックする

時間生産性=生産量÷労働時間で表わされる。
顧客要求の高度化・多様化から企業のサービス競争は激化し、営業・製造・業務などいずれの部署でも仕事の工数が増え、そのカバーのために残業や休日出勤が増えている。売上は増えることなく時間数だけが増えてしまっている。
この原因を確認してみると、多くの部署で僅かなロスタイム・アイドルタイムが積み重なっていることが分かる。得意先や取引業者からの要望の一つひとつは僅かな影響であっても、それが繰り返され、積み重なれば、取り返すことができない大きなダメージとなっていくのである。10分の待ち時間が常態化する、1%の値引きが少しずつ上昇していくなど、知らず知らずの間に時間やコストを費やしている場合が多い。結果として長時間の勤務につながり、残業・休出等が慢性化する羽目になり利益を圧迫することになる。むろん顧客志向の観点は大事なことではあるが、会社が傾くようなことがあっては元も子もない。
社内のあらゆる業務の時間データを再集計し、生産性低下の原因となっている業務や作業を洗い出し、客観的なデータとして時間の単位で明らかにすることが必要だ。

働き方を変えてみる

今夏は電力事情の関係でサマータイム導入など、勤務日や時間帯を変更した企業も多い。 中小企業でも今後、生産性の観点から働き方を見直してみたい。

  1. 勤務形態や仕事の仕方を見直す
    • 例えば、全員一律の勤務時間を仕事量に合わせてフレキシブルに変更する。土日も勤務日数に加えて週の仕事量を平準化する。社内対応では採算の取れにくい業務は外注化する、などである。
  2. 仕事の工数・人の割り振りを見直す
    • 従来通りの仕事のやり方や進め方にメスを入れ、必要な仕事の絞り込みを徹底する。得意先からの発注の仕様や条件を変更し、自社裁量の部分を広げてもらう(この場合、提供する製品・サービスのQCDを維持することは当然)、などである。
  3. 一人一役の働き方を見直す
    • 多能工化を掲げている企業は多いが、さほど行われていないのが実情ではないだろうか。この時期、複数の仕事をこなせることが大きな戦力アップとなる。一定の資格を取得させたり業務経験を積ませるなど、ある程度の時間は必要にはなるが、本気で多能工化に取り組みたい。社員総力での戦である。

得意先との交渉・連携を図る

中小企業はビジネスの取引上、弱い立場に立たざるを得ない場合も多い。下請け業務などでは、発注者からの無理な条件での受注もよく聞く話だ。「赤字覚悟」「付き合い上仕方なく受注」など、無理をしての仕事や損をしての仕事など長く続けられるはずはない。得意先と自社、双方が長い取引を望むのであれば、自社の現状を客観的に分析し、このままでは企業として立ちいかなくなること、現状打開には現在の仕事の発注方法や条件に対する変更を希望することを、誠意と説得力を持って要望していく必要がある。
取引がなくなることを恐れるあまり、取引先に条件交渉することを躊躇する経営者も少なくない。自社の数値データの提示や切迫した経営状況の説明など、文書による要望書が 誠意と説得力を増す手段になるだろう。

敵はウチ(社内)にあり

筆者は、厳しい経営環境の中、生産性改善というお馴染みのフレーズが今こそ生き残りのカギになっていると感じている。従来からの社内・社外への関わりのあり方を見直し、苦境を改善のチャンスにしていくことは、経営者の大事な仕事と言えよう。

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