人事理念の構築と展開
第2回:人事理念と人事制度

常務取締役 山中宏美

 「人事理念の構築と展開」の内容 

はじめに

前回は、人事理念と経営理念の関連性及び人事理念の必要性を述べた。そもそも理念という性格上、設定しただけではまったく意味を持たないことは自明の理である。重要なのは、人事理念をいかにして社内及び従業員に対して浸透させるか、また、理念内容を社内外にアピールし続けるか、ということである。
今回は、制度の面から人事理念を社内に浸透させていくことについて述べてみたい。人事理念を、社員に教育・浸透させていくことが直接的なアプローチであるならば、制度面から浸透させていくことは間接的なアプローチといえる。 この間接的なアプローチは、直接的なアプローチよりも時間がかかるが、反面、じわじわと浸透できるとともに、直接的なアプローチの受け皿になる意味で重要である。

人事理念とトータル人事制度

人事理念とトータル人事制度

トータル人事制度では、「人事理念」が経営理念とともに最上位の位置付けである。「人事理念」が「人事評価制度」「人材開発制度」「人事処遇制度」及び「人事情報制度」にブレークダウンされて、具現化されるということになる。「理念」という単語を国語辞典で引くと「何を最高のものとするかについての、その人の根本的な考え方(三省堂新明解国語辞典)」と書かれている。会社に言い換えれば、人事についての会社としての根本的な考え方が「人事理念」ということになる。したがって、各制度は、その考え方を展開するための手段であり受け皿になる。以降では、人事理念と各制度との関係について考察する。

1.人材評価制度との関係

従業員が「こうあってほしい」「このような行動をしてほしい」という人事理念は、『行動・考え方・態度・結果について、こうであれば評価する』ということを鮮明にすることである。人間は、評価や認知を求めて行動するものであり、その枠の中で努力することが一般的であるので、その内容をはっきり示すことが重要になる。 以下に、前回紹介したS製作所様の人事理念を再掲させていただく。

「私たちは、お客様に満足していただける製品作りができる人の養成と、多能工化されたプロ集団を目指します。そのために、人の和とルール遵守を大切にした前向きで自立した個人の形成をはかります。また、向上しようとする人へのチャンスは公平に提供し、その結果貢献してくれた人には必ず報います。」

これによると、「お客様に満足していただける製品を作った人」「多能工の人」「プロの人」「和とルールを守る人」「前向きの考え方・態度の人」「自立した人」は、当然評価されなくてはならない。さらに実績面・能力面・執務態度面等に仕分けされ、場合によっては細分化され整理されていることが重要である。また、「多能工」とは具体的にわが社にとって、どのような能力を複数身に付けることなのか、「プロ」とは具体的にどのような考え方をして行動することなのかは、会社によって多少なりとも違いがあるものであり、その点の定義づけがしっかりしていなければならない。そうしないと、従業員には正確に伝わらない。一番わかりやすいのは、その期待される行動・考え方をしている従業員を具体的に示すことであろう。

2.人材処遇制度との関係

従業員にとって、関心事として高いのは、評価がどのようなものであるかということと、どのように処遇してくれるかということである。処遇面での内容を明示することは、働く意欲・姿勢に大いに影響するから重要である。先のS製作所様の人事理念であれば、「その結果貢献してくれた人には必ず報います。」というくだりがそれに該当する。評価結果を通して、その人の実績・能力向上・執務態度の向上等を判断し、その人に賃金・報酬・昇進・昇格面で報いていくことになる。

3.人材開発制度との関係

人事理念の浸透という観点からみると、一番時間のかかることが従業員の能力(知識・技術・態度)の向上であり、行動の変容である。従業員にこうあってほしい・このような行動を取ってほしいということになれば、徹底した教育が必要になる。先ほどのS製作所様の事例でいえば「プロの人」「和とルールを守る人」「前向きの考え方・態度の人」「自立した人」等の執務態度や考え方に関することは、特に時間がかかるため、繰り返しが重要である。その意味で、職場の長が徹底して繰り返し実践できるような制度が必要になり、OJT(職場内教育)が機能できるような制度を考えなくてならない。

4.人材情報制度との関係

人事理念の浸透度合いをはかるには、従業員一人ひとりがいかにして期待される行動や態度がとれるようになったかを、確認し記録をしておくとよい。元来、能力の向上は、人間にとって自己実現欲求の根本になるものであり、喜びにつながるものであるといえる。能力向上や理念の浸透度合いがはっきりわかるものでなくてはならない。

5.制度が機能しているかのチェック

制度が有効に機能しているかを絶えず確認し、人事理念の浸透のための手を緩めないようにしなくてはならない。先にも述べたように、制度面からのアプローチは間接的であるので、時間がかかるものであり、相当の執念と強固な意思が必要になる。そのような意味から、できうる限り短期間での確認と修正対策が重要である。

おわりに

今回は、人事理念の浸透について、トータル人事制度との関係を中心に考えてみた。トータル人事制度については、別に新しい考え方でもないが、全社及び全従業員に人事理念を浸透させていくためには、全体を有機的につなぎ合わせると言う観点から、非常に有効であるように思う。

人事戦略・人事制度構築コンサルティング

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