処遇制度の根幹は賃金制度
〜イキイキ風土を実現するための人事制度(3)〜

株式会社MELコンサルティング 代表取締役社長 渡辺晴樹

『イキイキ風土を実現するための人事制度』シリーズの第3回目は、「処遇制度の根幹は賃金制度」ということについて、経営者及び人事・労務担当者を対象に解説する。
一般的に賃金は、「労働の対価」と言われているが、実際には、労働市場における「需給関係」、企業の「支払能力」、従業員の「生計費」など、さまざまな観点から賃金が決定される。かつて、多くの企業が勤続年数とともに右肩上がりの賃金カーブを描く、いわゆる年功型賃金を採用し、それが長期雇用を支えてきた。
しかし、現在、年功型賃金は、技術革新や価値観の変化に伴い従業員に納得感・公正感が得られなくなってきた。近年の著しい環境変化の中で、多くの企業が年功型賃金を見直ししているものの、年功型賃金制度や年功的な運用を行っている企業も少なくない。

渡辺晴樹

 「イキイキ風土を実現するための人事制度」の内容 

賃金制度の変遷

日本の賃金制度は、時代の変化に合わせて大きく変化してきた。年功序列主義が長く続き、能力主義、成果主義へと変遷してきた。特に1990年代に入ると、大手企業を中心に成果主義型賃金制度が急速に広がった。原因としては、バブル崩壊後の企業業績の低迷を余儀なくされたこと。年功的な職能給を採っていた企業は、人件費の増加により企業収益が圧迫されたからだ。
さらに、労働市場における人材の獲得競争も活発になり、特に優秀な人材を囲い込む方法として、処遇上のメリハリを付ける成果主義が検討され、成果主義型賃金制度への移行が一気に進んだ。ところが、2004年頃から成果主義型の人事評価制度の運用にあたって、さまざまな問題点が指摘されるようになった。

賃金とは

賃金には、「3つの性格」があるといわれている。第1は企業活動の費用としての性格、第2は社員の生活費としての性格、第3は労働の価格としての性格である。企業が賃金制度を構築する場合に、賃金の「3つの性格」について、十分に考慮する必要がある。
ウィキペディア(Wikipedia)によれば、『賃金(ちんぎん)とは、名称の如何を問わず、雇用契約における労働の対価として、使用者(雇用主)が労働者に支払うすべてのものをさす』と解説している。
労働基準法では、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義されている(労基法第11条)。 なお、以下のものは賃金には含まれない。

  • 1.恩恵的・任意的給付
    退職金、病気見舞金、死亡弔慰金、災害見舞金など。ただし、労働契約、就業規則、労働協約などであらかじめ支給条件が明確になっているものは賃金とみなされる(昭和22年9月13日労働省労働基準局関係次官通達発基17号)。
  • 2.福利厚生的給付・企業設備
    支給される制服や作業服、作業用品などの現物給付は、福利厚生的給付であり原則として賃金にはあたらない(昭和63年3月14日労働省労働基準局長通達基発150号)。

公正な賃金の考え方

1.同一労働同一賃金
従業員の賃金を決める上で考慮しなければならない幾つかの原則がある。第1は、「内的公正の原則」である。個々の従業員の賃金は、それぞれの従事する仕事の価値に応じて支払わなければならないという原則である。第2は、「外的公正の原則」である。世間相場の賃金を支払わなければならないという原則である。第3は、「個人間公正の原則」である。同じ仕事をしていれば同じ賃金を支払わなければならないという原則である。
2.生活保障の原則
日本における賃金制度を考える場合、生活保障の原則を考慮する必要がある。誰もがある一定水準以上の生活を保障されなければならないという考え方である。生活費への配慮が従業員の安心感をもたらしているといえる。
3.賃金制度の公開
賃金制度の公開が必要である。公正な賃金制度を確立するためには、賃金がどのような基準で決定され、どのような基準で改訂されるのかを明確にし、それを従業員に公開しなければならない。

賃金体系

賃金体系とは「基本給と諸手当の構成」のことである。具体的には基本給、役職手当、住宅手当、通勤手当など。賃金体系は、月例賃金、賞与、退職金、インセンティブなども含めて広く考えることが重要である。

賃金体系の例

基本給について

基本給をどのようにして決めるかが、賃金制度を設計する上で最も重要である。近年、業績給、役割給を採用する企業が多くなっている。各種基本給について、どのような賃金かその内容を以下に説明する。

1.職能給従業員の職務遂行能力を基準として決める賃金
2.職務給従業員が実際に担当している職務の難易度・責任度を基準として決める賃金
3.職種給従業員の従事する職種を基準として決める賃金
4.生活給従業員の生活費に配慮して決める賃金
5.業績給役割の大きさ(または目標の高さ)と達成度で決まる賃金
6.役割給企業から与えられた役割(仕事と責任の範囲)で決まる賃金、職務給の一種

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