キャッシュフロー計算書とは
〜やさしい決算書の読み方(3)〜

株式会社MELコンサルティング 與田和泉

前回は、「損益計算書とは」ということで解説しました。今回は、「キャッシュフロー計算書とは」について解説していきます。

コンサルタント與田和泉

 「やさしい決算書の読み方」の内容 

第1回の時にキャッシュフロー計算書とは、『ある一定期間(損益計算書の期間と一緒です)の企業のお金の出入りをあらわし、お金(キャッシュ)の流れ(フロー)を【1】営業活動でのお金の収入と支出、【2】投資活動でのお金の収入と支出、【3】財務活動でのお金の収入と支出の3つに分けて、企業のお金の流れをあらわしています』とお伝えしました。
前回、損益計算書について解説しましたが、1年間の利益(損失)がそのまま現金の増加額(減少額)と一緒かと言うとちょっと違ってきます。売上の金額の一部がまだ現金で入ってこなかったり、借入金の返済で現金が減ったりするので、利益(損失)と現金の動きは必ずしも連動しません。そこで企業の1年間の現金の動き(増減)を原因別に示す決算書として「キャッシュフロー計算書」があります。
みなさんも毎月、毎日お金の出入りがあり、お金がなくならないように管理をしていると思います。キャッシュフローとは、お金の流れですから簡単に言えば、現金の「入り」と「出」です。それでは「個人のキャッシュフロー」で考えてみましょう。

個人のキャッシュフロー

(1)会社員の場合、仕事をして給与や賞与を現金でもらいます。これは現金の「入り」で収入です。生活のために家賃や食事、また衣服や遊びのために現金を払います。これは現金の「出」で支出です。
(2)預金が貯まり自家用車を購入すると代金として現金を払います。これは現金の「出」で支出です。その後、マンションを購入するため、頭金の一部に充てるため自家用車を中古車として売却すると現金を手にすることができます。これは現金の「入り」で収入です。
(3)マンションを購入しようと考えた時、手持ちの現金だけでは足りないので住宅ローンでお金を借りました。これは、現金の「入り」で収入です。ただしすぐに建築業者にマンションの代金として同額の現金を支払うので現金の「出」で支出となります。2,000万円の住宅ローンを組んでも、目の前に現金を積まないので「収入」という感覚は薄いですが、住宅ローンは借入金でその瞬間は個人にとっての収入です。しかし即時にマンション代金として支払うので同時に支出になるのです。

個人のキャッシュフローを考えて見ても、色々な種類のお金の動きがあることがわかります。(1)は日常の生活の中での現金の出入りです。(2)と(3)の自家用車の購入、売却・マンションの購入は何年かに一度の大きな買物(個人の固定資産)のお金の出入りですし、また住宅ローンの借入金は一生に一度の大きな資金調達でお金の「入り」で毎月少しずつ返済していくのはお金の「出」となります。(1)の普段のお金の出入りとは区分して考えた方がよさそうですね。

ローンでマンションを購入

企業のキャッシュフロー

現金は企業の血液と言われます。会計上の利益が出ていても、手許に現金がないと支払(仕入先への代金や給与)が滞り、支払手形も不渡りとなり、銀行取引停止となり企業は存続できず破綻することになります。人は血液がなくなれば、「死」に至ります。企業も現金がなくなれば存続できません。キャッシュフロー計算書は個人の場合と同じように現金の「入り」を収入、「出」を支出として計算します。それを、【1】営業活動、【2】投資活動、【3】財務活動の3つに分けてあらわします。

(1)営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローは、その企業の本来の営業活動から生じた現金の「入り」と「出」です。業種は製造業、小売業、サービス業と色々ありますが、商品・サービスを販売・提供して代金を回収すれば、「営業活動による収入」です。「売上」の金額です。売上を上げるためには、ものを作り販売活動を行います。ものを作るための材料・部品が必要ですし小売業では商品を仕入れますが、その代金や社員には給与を支払わなければなりません。また売上を上げるための広告や宣伝費などの費用も発生します。これが「営業活動による支出」です。先ほどの個人のキャッシュフローの(1)の部分が「営業活動によるキャッシュフロー」に該当します。
従って、ここでのキャッシュフローはプラス(+)になっていることが大変重要です。企業の本来の活動でキャッシュが足りないと、企業活動を行うことが出来なくなります。支払手形を決済するお金がないと銀行取引が停止され企業活動が出来なくなります(倒産です)。
「勘定あって銭足らず」(=黒字倒産)とは、売上は順調で利益も出ているが、売掛金が長期に回収できず、また期間の長い受取手形をもらっているのでなかなか売上が現金にならない(「入り」がない)のに、給与や仕入れ代金はどんどん現金で払わなければならず(「出」は多い)、手許のお金が不足してしまうことを言っています。
「売上」が全て現金だと、売上と「売上による営業収入」は一致します。しかし、掛けで販売したり、受取手形をもらうと売上が現金化するまでに時間がかかります。売上と入金の「ズレ」が発生します。一方、仕入の代金は販売に先行するので商品やサービスをお客様に提供する前にお金が出て行きます。また、皆さんの給与は、毎月定時に支払わなければなりません。「お金がないから、5日待って欲しい、来月払うから」と言われても困ってしまいます。
営業力が弱かったり、商品力が弱く、競合他社に売り負けると「利益」も出ませんし、「お金」も足りなくなります。キャッシュフロー計算書を見たら、「営業活動によるキャッシュフロー」で現金がプラス(+)になっているかを確認して下さい。

現金で商品を販売
売上と営業収入は一致「お金の動き=売上取引」

掛で商品を販売
売上と営業収入の入金は“ズレ”る「お金の動き≠売上取引」

(2)投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローは、企業が将来の成長に向けてどれだけのお金を支出したか、また回収をしたかを示しています。事業拡大のために製造業であれば、工場を建設し機械設備に投資しますし、小売業であれば支店や営業所・店舗のために土地や建物に投資をします。投資をすれば、通常はお金が出ていきます。キャッシュフロー計算書では、「有形固定資産の取得による支出」として表示します。先ほどの個人のキャッシュフローでは(2)の自家用車を購入した時のお金の支出、(3)のマンションの購入のためのお金の支出が、企業の「投資活動によるキャッシュフロー」に該当します。
先ほどの個人の例では自家用車を中古車として売却しました。その結果、現金の収入がありましたが、企業でも固定資産を売却すると現金の「入り」、収入があります。前回の損益計算書の解説の中で企業が土地の売却をする話をしました。「簿価3億円の土地を10億円で売ったら7億円の特別利益がでて、簿価3億円の土地を1億円で処分すると、2億円の特別損失が出る。」この場合、前者は7億円の利益が出て、後者は2億円の損失が発生していますが、キャッシュフロー計算書では、前者は「有形固定資産の売却による収入・・・10億円」となり、後者は「有形固定資産の売却による収入・・・1億円」と表示します。
このようにキャッシュフロー計算書では、お金の動きで「入り」を収入、「出」を支出ととらえます。土地を売却したとき、その結果いくらの現金収入があったのかをあらわしています。
簿価3億円の土地を1億円で処分すると、会計上は2億円の特別損失ですが、キャッシュフロー計算書では「有形固定資産の売却による収入・・・1億円」となります。少しややこしい所ですが、キャッシュフロー計算書ではお金が入れば「収入」になります。「損したか、利益が出たか」でなく、「現金収入がいくらあったか、現金支出がいくらあったか」が重要なのです。
投資活動によるキャッシュフローの中では、固定資産だけでなく「有価証券」「子会社株式」「貸付」などのお金の出入りをあらわします。具体的には次のようになります。お金の出入りで、損得は関係なしです。

  • 有価証券の取得による支出(−)
    ・・・株式を購入取得した時に支払ったお金(お金は出て行く)
  • 有価証券の売却による収入(+)
    ・・・株式を売却して入ってきたお金(損や得は関係なし)
  • 有形固定資産の取得による支出(−)
    ・・・土地や建物などを取得した時に支払ったお金(お金は出て行く)
  • 有形固定資産の売却による収入(+)
    ・・・土地や建物などを売却して入ってきたお金(損や得は関係なし)

土地の売却をすると

(3)財務活動によるキャッシュフロー
企業は、創業の時は資本金としてお金を払い込んでもらい、活動を開始します。通常、資本金だけでは開業資金が不足し金融機関から借り入れをします。また大きな設備投資をする時も必要な資金を借り入れたり、社債を発行して資金調達をします。資金調達はこのように株式発行(設立の資本金や増資)、長期・短期の借入金、社債の発行などによって行います。資本金は返済不要ですが、借入金や社債は必ず返済しなければなりません。ここで、お金の出入りが発生します。個人のキャッシュフローの所で見た住宅ローンは、借入金だが収入であると説明しました。企業でいえば、「財務活動によるキャッシュフロー」で「借入金の借り入れによる収入」に該当します。(住宅ローンの場合はマンションを購入しているので、同時に「投資活動によるキャッシュフロー」の有形固定資産の取得による支出になります)。
ここでもお金の「出入り」を確認するので、損得は関係ありません。財務活動によるキャッシュフローは、企業の営業活動、投資活動を支えるための資金調達とその返済の状況をあらわします。借り入れをしたり社債を発行するとお金が入ってくるので「収入」です。借入金を返済したり、社債を償還(通常、利息をつけて社債を購入した人や企業にお金を返します)するとお金が出て行くので「支出」となります。
財務活動によるキャッシュフローを具体的に見ていくと次のようになります。投資活動のキャッシュフローと同じくお金の出入りで、損得は関係ありません。

  • 借入金の借り入れによる収入(+)
    ・・・借り入れをすると企業にお金が入ってきて「収入」です
  • 借入金の返済による支出(−)
    ・・・借入金を返済すると企業からお金が」出て行くので「支出」です
  • 社債の発行による収入(+)
    ・・・社債を発行すると企業にお金が入ってきて「収入」です
  • 社債の償還による支出(−)
    ・・・社債を償還すると企業からお金が」出て行くので「支出」です
  • 株式発行による収入(+)
    ・・・株式を発行(資本金、増資)すると企業にお金が入ってきて「収入」です
  • 配当金の支払額(−)
    ・・・株主に配当金を支払うと企業からお金が」出て行くので「支出」です

「借入金の借り入れによる収入」と言われると、少し違和感がありますが、企業にとっては現金が入ってくるのでキャッシュフロー計算書では、現金の「収入」となります。

キャッシュフロー計算書の例(直接法)

この例では、営業活動で1,000万円の現金収入があり、商品仕入代金と人件費で700万円の現金支出があったことがわかります。また投資活動では建物を取得して2,000万円の現金支出がありますが、その資金調達としては財務活動の借入金で2,000万円の収入があり、それで支払ったことがわかります。また資本金の収入が500万円あり、期首の現金残高は0(X現金及び現金同等物の期首残高)ですから、設立したばかりの企業ということもわかります。そして借入金の一部400万円を返済していることもわかります。
1年間の活動の結果、この企業には400万円の残高(Y現金及び現金同等物の期末残高)があることもわかります。なお、この400万円は、期末の貸借対照表の現金残高と一致します。

キャッシュフロー計算書には、上記の例のように実際に現金が動いたものを集計する「直接法」と損益計算書の税引前当期純利益からスタートして損益計算書の現金が動かない項目と貸借対照表の流動資産や流動負債の増減を加減算する「間接法」の2種類があります。
お金の動きがわかりやすいのは直接法ですが、実際にはすべての取引における現金の流れを計算するのは困難です。ですから、ほとんどの企業では税引前当期純利益から計算上で間接的に算出する間接法を用いています。

現金及び現金同等物

キャッシュフロー計算書の例で、現金及び現金同等物と書かれています。今までわかりやすくするため「現金」と言ってきましたが、正確には「現金及び現金同等物」がいわゆる「キャッシュ」となります。それでは現金には何が含まれるかと言うと、手許の現金と普通預金・当座預金・通知預金などの要求払預金がはいります。現金同等物とは何かというと、「容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資をいう」とされており、取得日から満期日又は償還日までの期間が3ヶ月以内の短期投資である定期預金などがあります。証券市場で売却すればすぐに現金化できる「有価証券」(株式)は現金同等物には入りません。

今回は「キャッシュフロー計算書」はどんな決算書なのかについてお話しました。貸借対照表や損益計算書ではわからない「現金」の動きを3つの区分に分けて説明するのが「キャッシュフロー計算書」ということです。3つの区分の(+)(−)がどういう関係が良いかまではお話しできませんでしたが、別な機会でお話ししたいと思います。
次回は「ここが知りたい会計のあれこれ」というテーマでお話ししたいと思います。お楽しみに。

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