ここが知りたい会計のあれこれ、その2
〜やさしい決算書の読み方(5)〜

株式会社MELコンサルティング 與田和泉

『やさしい決算書の読み方』シリーズの第4回では、「ここが知りたい会計のあれこれ」ということで「減価償却費」についてお話ししました。今回は、売上と現金の動き(キャッシュフロー)についてお話ししたいと思います。
第3回の「キャッシュフロー計算書とは」で営業活動によるキャッシュフローのお話しをしましたが、その営業活動によるキャッシュの「入り」の部分について少し詳しくお話しします。

コンサルタント與田和泉

 「やさしい決算書の読み方」の内容 

「回収なくして販売なし」ということを聞いたことはありませんか?販売や営業の方は、誰でも毎月の売上目標達成に向けて、必死になって販売活動・営業活動を展開しています。努力が実りせっかく販売できても、その代金を回収できず貸倒れになればせっかくの努力が無駄になるだけでなく、損失が発生し最悪の場合は倒産ということもありえます。

売上とは

企業によって扱う商品・サービスは違いますが、企業が事業活動を行っていくには、収益である売上で、現金が企業に入ってこないと事業活動を継続することは出来ません。キャッシュフロー計算書で解説しましたが、企業にとってお金は血液であり「勘定合って、銭足らず」では企業は存続できません。
売上には、現金の動きとの関係では大きく3種類の売上があります。今回は簿記上の取引についても少し触れます。

1.現金の動きと商品・サービスの提供が同時の場合
レストランで食事をした時、またスーパーで買物をすると普通は「現金」で支払いを済ませます。この場合は、企業側からすると「商品・サービス」の提供と「現金」の入金は同時です。
売上金額が100,000円だと、簿記上の仕訳は次のようになります。

売上時(現金)100,000(売上)100,000

100,000円の売上があり、現金が100,000円入金したことを示しています。
売上が現金の時は、簿記上の取引はこれだけです。いわゆる現金商売です。貸倒れのリスクはありません。
この場合、商売上の取引は1回で、簿記上の取引も1回の取引となります。

売上時(現金)100,000(売上)100,000

2.現金の入金が商品・サービスの提供より遅れる場合
日本では企業間取引は多くの場合、信用取引で行われます。「A社は月末締めの翌月25日払い」とか「B社は毎月20日締めの翌月末払い」というように取引先の相手によって支払いの条件が変わります。また、請求書を発行して集金をしますが、代金の回収は必ずしも「現金」とは限らず、支払日から更に2ヶ月後に現金化できる「手形」(この場合受取手形といいます)を受け取ることもあります。

2-1.「A社は月末締めの翌月25日現金払い」という場合、例えば、A社に1月15日に商品を納品し、売上が発生した時にはまだ「現金」の入金はありません。ただし売上は発生しているのでそのことを記録しておきます。
この時の簿記上の取引は、納品した商品が100,000円だとすると次のようになります。

売上時1月15日(売掛金)100,000(売上)100,000

100,000円の売上があったが、まだ現金の入金はなくA社との条件で月末に当月分の取引額で請求書を発行することになります。請求書を発行するので、「現金」ではなく、「売掛金」という資産で処理します。
A社に請求書を発行し、翌月の2月25日にその代金の入金があると簿記では次の仕訳を行います。

入金時2月25日(現金)100,000(売掛金)100,000

売掛金で請求書を発行した売上が、やっと「現金」に変わりました。つまり「売掛金」が「現金」になります。 このケースの場合、商売上の取引は1回ですが簿記上の取引は2回の取引となります。

売上時1月15日(売掛金)100,000(売上)100,000
入金時2月25日(現金)100,000(売掛金)100,000

現金で売上げた時は、売上と入金が同時でしたが、信用取引で請求書を発行するこのA社のケースでは1月15日に売上、2月25日に「現金」が入金してくるので、現金化までに40日間かかったことになります。売上と入金がズレてしまいます。

2-2.請求書を発行し、支払日から更に2ヶ月後に現金化できる「手形」(この場合受取手形といいます)を受け取ることもあります。この場合の現金化までの期間は前述の信用取引よりも更に長くなり、簿記上の取引も面倒になります。「C社は月末締めの翌月末払い、ただし翌月末起算2ヶ月の手形払い」という条件で、1月10日に、100,000円の売上が発生したケースで考えてみます。

売上時1月10日(売掛金)100,000(売上)100,000

A社のケースと同じです。請求書を発行します。売上が発生しているのでそのことを記録しておきます。
翌月末に集金に行きますが、取引条件が「翌月末起算2ヶ月の手形払い」ですので「現金」でなく「手形」をもらいます。その時、簿記上では次の仕訳を行います。

集金時2月28日(受取手形)100,000(売掛金)100,000

集金時には、現金でなく「手形」を受け取るので「売掛金」がなくなり「受取手形」が増えます。この時点ではまだ現金になっていません。受取手形をもらっていますから、売掛金のままよりは安心できます。受取手形は、指定された銀行で指定された日に現金化することができます。銀行から「現金」が入金した時の仕訳は次の通りです。このケースでは、2ヶ月後ですから4月30日に入金します。

入金時4月30日(現金)100,000(受取手形)100,000

受取手形が、やっと現金になります。この場合、売上から現金の入金まで、3ヶ月と20日(=110日、1ヶ月を30日として)かかっています。随分、時間がかかりますね。
この場合、商売上の取引は1回ですが簿記上の取引は3回の取引となります。

売上時1月10日(売掛金)100,000(売上)100,000
集金時2月28日(受取手形)100,000(売掛金)100,000
入金時4月30日(現金)100,000(受取手形)100,000

C社のケースでは販売から現金化まで実に110日もかかっています。仮に3月末が決算時期の会社ですと、3月末の損益計算書では売上が上がり利益もでていますが、手許にはまだ現金が入金していない状況となっています。

3.現金の入金が商品・サービスより早い場合
人気商品や数量限定など予約販売の場合は、商品・サービスを提供する前に現金が入金するケースもあります。映画やコンサートの前売り券、列車の回数券や旅行代金の前払いなどのケースです。100,000円分の商品・サービスの代金を事前に受け取った場合、簿記上では次の様な仕訳をします。

入金時(現金)100,000(前受金)100,000

商品・サービスは提供していませんが現金の入金はあるので、商品・サービス売上の「前受金」をもらったという処理をします。
そして、実際に商品・サービスを提供した時に、

商品・サービス提供時(前受金)100,000(売上)100,000

という仕訳をします。
企業側からすると商品・サービスを提供する前に代金が入金するので少し割引をする場合が多い様です。先ほどの場合と比べると、企業の資金繰りはかなり楽になること間違いなしですね。
この場合、商売上の取引は1回ですが簿記上の取引は2回の取引となります。

入金時(現金)100,000(前受金)100,000
商品・サービス提供時(前受金)100,000(売上)100,000

1〜3いずれの場合でも最終的には、100,000円の売上があり「現金」が入金することになります。しかし、どの時点で代金が回収できるかは企業にとって大きな影響があります。回収が遅れると資金繰りは悪くなり、運転資金の借入れが必要となり、また回収できない時は結果として損失になってしまいます。
売掛金や受取手形を回収できないと、簿記上は次のような仕訳をします。

(貸倒損失)100,000(売掛金)100,000
(貸倒損失)100,000(受取手形)100,000

本来、100,000円の売上(=収益)があったはずなのに、回収できないと現金の入金はなく「貸倒損失」という費用になってしまいます。

「回収なくして販売なし」とは、いくら「売上」が上がっても、その代金を回収できないと企業は資金繰りが悪くなり、最悪はその代金が回収できず、損失が発生し、最終的には「勘定合って、銭足らず」で倒産という事態にもなりかねないということです。
「売上は営業の仕事、回収は経理の仕事」と勘違いしている営業担当者がいますが、回収までが営業担当者の仕事です。回収は、売上を上げるのと同様に企業の活動にとって、とても重要であると言えます。

次回は、「押さえておきたい経営分析」についてお話しします。お楽しみに。

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