押さえておきたい経営分析
〜やさしい決算書の読み方(6)〜

株式会社MELコンサルティング 與田和泉

『やさしい決算書の読み方』シリーズでは、今までに1.貸借対照表、2.損益計算書、3.キャッシュフロー計算書、4.減価償却費、5.売上と現金の動き、について解説をしてきました。今回は、「押さえておきたい経営分析」ということで誰でも簡単に出来る、財務諸表を使った経営分析についてお話ししたいと思います。今回使う財務諸表は、貸借対照表です。

経営分析といっても、成長性分析、収益性分析、採算性分析、安全性分析、生産性分析など色々な切り口がありますが、ここでは最低限押さえておいてもらいたい項目についてお話しします。
企業を取りまく環境は日々変化し、経営に大きな影響を与えます。どんな時代でも企業は同業種や異業種との競争に勝ち、生き残っていかなければなりません。その為には、提供する商品・サービスでお客様に満足していただき、適正な利益を上げながら成長することが必要です。しかし、いくら儲かっても、また売上が伸びて成長しても、お金が回らなくなると企業には「倒産」の2文字が待っています。「勘定合って銭足らず」では困ります。このことについては、今までのシリーズの中でも何回かお話しをしました。いい商品・サービスを提供していても倒産してしまってはお客様、社員、取引先、株主、金融機関、地域社会などに迷惑をかけてしまいます。「つぶれない」ことは本当に大事なことです。それでは、まず安全性の分析からお話しします。

安全性の分析

1.自己資本比率
最初に確認したいのは、自己資本比率です。第1回の貸借対照表のお話しをした時に、資産・負債・純資産の関係と自己資本比率について簡単にふれました。貸借対照表の基本型を思い出してください。

図表1

純資産は、企業の資本金と今まで稼いできた利益の蓄積である利益剰余金からなり、返済不要の資金調達ですから、自己資本といいます。流動負債・固定負債は、支払手形や買掛金、短期や長期の借入金・社債などで必ず返済しないといけない資金調達ですから、他人資本といいます。
この自己資本(=純資産)の総資本に対する比率を自己資本比率といいます。
自己資本比率は資金調達の面から企業の安全性をみる指標です。この比率は高いほど良いとされます。
歴史もあり、安定した実績を確保し継続的に利益を出している企業はこの自己資本比率が高い企業が多いようです。
一方、設立したばかりで、借入金の大きい企業は負債が多く、自己資本比率は低くなります。貸借対照表を見ればこの自己資本比率を計算するのは、簡単です。基本的には、純資産÷総資本×100=自己資本比率で計算できます。(総資本=流動負債+固定負債+純資産)
(図表1)のような純資産の構成ですと自己資本比率は40%ということになります。
自己資本比率が40%あれば、当面「倒産」という事態にはならないでしょうが、何%以上が健全で安心できる基準かは、その企業の業種によっても変わってきます。自己資本比率は30%以上が目安で、50%を超えていればかなり高い、すなわち財務的に安全性が高いといえます。自己資本比率が低いと借金が多いということです。

2.流動比率
自己資本比率が高いからといって、資金繰りが万全かというと必ずしもそうとはいえないケースもあります。そこで二番目に確認したいのは、流動比率です。
例えば、自己資本比率が40%でも、貸借対照表の構造が次のような場合はどうでしょうか?
固定資産(一年以上使う資産)の調達のために、短期の流動負債で資金を調達しているようですが。

図表2

短期(一年)の支払能力を見る指標が流動比率です。元金を一年以内に返済をしなければならない流動負債(短期借入金や支払手形・買掛金など)を支払うために、一年以内に現金化できる流動資産(現金預金、受取手形・売掛金、棚卸資産など)がどれ位あるかを見ます。流動比率の計算も貸借対照表を見れば、簡単に計算することができます。流動比率=流動資産÷流動負債×100です。図表2のケースでは、流動比率は20÷40×100=50%となります。この図表2では、一年以内に返済しなければならない負債が40なのに対して、一年以内に現金化できる資産が20しかないということです。20−40=▲20となり、20の資金が足りないということになります。不要な固定資産を売却して現金化するか、資本金を増やして現金を増やすか、短期の借入金で対応するか、いずれにしても短期の負債を返済する為に経営者は資金繰りに走り回らなければなりません。
図表1の場合の流動比率はどうでしょうか?簡単ですね。50÷30×100=166.7%となります。一年以内に返済しなければいけない負債は30に対して、一年以内に現金化できる資産が50あるということです。50−30=20となり、短期の資金余裕は20あるということです。流動比率は、一般的には150〜200%あるのが望ましいといわれていますが、この流動比率も企業の業種によって基準は異なってきます。

3.当座比率
流動比率を見る時に、少し気をつけてもらいたいことがあります。貸借対照表の流動資産と流動負債をみれば、その企業の当面の支払能力(資金繰り)に対する判断は瞬時にできます。流動資産の金額が流動負債の金額より大きな数字であれば、とりあえずは支払の心配はないと判断できます。しかし、流動資産の内容によっては必ずしも安心できないケースもあります。流動比率を確認したら、当座比率もチェックしてみてください。

当座比率とは、流動比率の分子を流動資産でなく、当座資産を使って計算します。流動資産の中の現金、預金、受取手形、売掛金、有価証券を総称して当座資産といいます。受取手形、売掛金、有価証券は換金性が高く、短期間で現金化することができます。流動資産の中には、当座資産以外に棚卸資産や、短期貸付金などもありますが、当座資産に比べると現金化には時間がかかります。前回の「売上と現金の動き」で、日本では信用取引が多く売上が現金のケースより、売上げても1.売掛金になり、回収したら2.受取手形になり、期日が来たらやっと3.現金になるというお話しをしました。棚卸資産(商品、製品)は現金化するのに時間がかかります。また、棚卸資産の中には一年以上売れ残っていて今後売れる見込みがない物があることもあります(売れないと、現金化はできませんし、廃棄処分をすれば、現金収入はなく廃棄損が発生します)。また、短期貸付金(一年以内に返済される予定の貸付金)も、場合によっては返済の猶予を求められるかも知れません。そうすると現金化には一年以上の時間がかかってしまいます。
しかし負債は、必ず期日までに返済しなければなりません。支払手形の決済ができないと、銀行取引が停止され実質的に倒産となってしまいます。
従って、流動比率をさらに厳しくチェックするには、当座比率で支払能力を確認することが重要です。図表3と図表4の流動資産は50、流動負債が30ですから流動比率は両方とも166.7%となります。それでは当座比率はどうでしょうか?

図表3

図表3の当座資産は、現金+受取手形=40+5=45です。当座比率は、当座資産÷流動負債×100で計算しますから、この場合、45÷30×100=150%となります。当面の支払には、問題はないことが確認できます。

図表4

それでは、図表4の場合を確認しましょう。図表4の当座資産は、現金+受取手形=5+5=10となります。当座比率は、10÷30×100=33.3%となります。この場合、資金繰りはかなり苦しくなることが解かります。図表4の場合、棚卸資産がどんどん売れて、しかも現金で回収していくことができれば、資金繰りは大丈夫かも知れませんが、現実的にはなかなかむずかしいと思われます。当座比率は100%以上が理想的です。
当座比率の計算は、貸借対照表から当座資産の合計を計算しなければなりませんが、単純な足し算です。その後は、割り算と掛け算です。貸借対照表と電卓があれば、今回お話しした自己資本比率、流動比率、当座比率はすぐに計算できます。今回は、貸借対照表を使って簡単に計算できる安全性の指標についてお話ししました。企業は継続して活動していかなければなりません。そういう点からは、収益性も成長性も大事ですが、安全性が一番大事だと思います。

それでは、次回も「押さえておきたい経営分析」の続きをお届けする予定です。お楽しみに。

※純資産は、今まで資本金と過去からの利益の蓄積である利益剰余金からなり、返済不要の資金調達で、自己資本と呼ばれ、負債は企業が借りてきている資金で必ず返済しなければならないので他人資本と呼ばれます、と説明をしてきました。もう少し詳しくお話しすると、純資産は、株主資本(資本金、剰余金)と株主資本以外の項目(評価・換算差額等、新株予約権)があります。一部自己資本に該当しないものもあります。会計の専門家を目指す方は詳細に理解する必要がありますが、会計の勉強を始めたい初心者の方を対象にわかり易く解説するために、まずは基本的なことの概要を理解していただくことを前提にお話ししています。
株主資本以外の項目は、会計の勉強を始めたばかりの方にはなかなか理解しづらい内容ですし、また中小企業の財務諸表ではあまり出てこない項目ですので、ここでは割愛しています。

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