コーポレートガバナンスとその対応
経営コンサルタント 山田孝
コーポレートガバナンスとは
最近、コーポレートガバナンスという言葉を良く耳にすると思います。
今回一連の商法改正が行われましたが、これは、このコーポレートガバナンスの根幹に関わる改正です。
コーポレートガバナンスとは、企業統治という意味であり、会社を巡る利害関係者である株主、経営陣、監督機構、従業員、会社債権者の相互の関係がどうあるべきかということを意味します。
その中心となるべきは、会社の機関がどうあるべきかということであり、一連の商法改正は、会社の各機関の機能を制度的に改革しようとするものです。そして、そのあるべき方向性は、企業の[1]適法性、健全性の確保に向けられたものであり、[2]のみならず、企業経営の効率性を高め、競争力の強化に向けられています。
コーポレートガバナンスは国によって異なりますが、日本企業のコーポレートガバナンスといえば、かつては、終身雇用、年功序列、協調的企業内組合に特徴づけられる「日本的経営」がもてはやされ、事実それにより、成功した多数の企業が存在しておりました。
しかし、日本企業の現状を見ると大企業経営者と総会屋との癒着、その他企業経営を巡る不祥事が後を絶たず、また、欧米先進国のみならずアジア諸国との競争も激化し、融資元である銀行が破綻し日本企業の存在自体が安閑と出来ない状況です。
この現状から、適法性、健全性の確保のみならず、企業経営の効率性を高め、その競争力を強化するにはどうすべきかという観点からもコーポレートガバナンスのあり方が考えられてきています。
日本企業における機関の現状
日本の大企業においては、所有と経営の分離が進み、企業経営に関する権限が経営者に集中し、経営陣が株主の利害をときに、ないがしろにすることはないかということです。
そこで、商法は、業務執行機関以外の監督機関の機能強化を図りました。これは、適法性、健全性の確保に資するものですが、一方で株主利益保護を中心とした適正な監督・監査は、企業経営の 効率性を高め、競争力の強化にもつながるものです。
従来、いわゆるメインバンク制のもと、企業の倒産リスクの回避等がなされてきましたが、銀行自体が破綻している現在では、このメインバンク制が機能していません。会社倒産の危機に対しては、株主が負うリスクは格段に大きくなっております。その意味でも株主の利益保護が図られねばなりません。
また、企業財政の立て直しのためには、株式発行による資金調達が必要となりますが、投資家が安心して投資するためには、やはり、この株主の利益保護が十分に反映されなければなりません。
また、一方では取締役の一定の範囲に、責任を軽減することを可能としました。これにより積極的な職務執行を行うことを可能にしました。
以下、今回のコーポレートガバナンスの整備を中心とした商法改正について解説いたします。
今回の商法改正について
監査役の機能強化
監査役に、取締役会への出席、意見陳述を義務付け、任期を現行の3年から4年としました。
また、監査役の選任に関する株主総会の議案提出につき、監査役会の同意を必要とし、かつ監査役会には、監査役選任についての議案を提出する権利を認め、監査役を辞任したものについては、株主総会において、辞任について意見を述べることができるとしました。さらに株主代表訴訟における責任軽減を認めました。また、大会社においては、3名以上の監査役のうち、半数以上が社外監査役でなければならないとしました。
これは、会社のコントロールを受けることのない社外監査役を積極的に導入することを義務づけたものです(ただし、これは大会社に適用されるものです)。
以上が監査役の独立を中心とした機能強化についての商法改正です。
また、従来は権利であった取締役会での意見陳述につき義務を課したことにより、積極的な監督機能がより期待されるものとなりました。
取締役会の機能強化
監査役の機能強化を図る一方で、会社の職務執行を監督する機能を取締役会自身に設けるというコーポレートガバナンスの方向性もあります。執行を執行役が行うこととし、その監督を社外取締役を中心とした取締役会が行うというものです。この方式を採用した場合には、指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設けなければなりません。この委員会等設置会社については、監査役制度が廃止されます。ただ、この方式を採用できる会社は、大会社および、中会社のうち定款で会計監査人の監査を受けると定めた会社となります。
監査役および取締役の責任免除
さらにこれまでの商法においては、取締役の会社に対する責任の免除及び監査役の責任免除には、総株主の同意が必要とされていましたが、公開会社など株主が多数存在する会社においては、事実上責任の免除は不可能でした。
そこで改正商法は、法令・定款違反行為に関する取締役の責任について、その取締役が職務を行うにあたって善意にして重大な過失が無い場合に、各取締役の賠償責任原因行為時の地位に応じて、取締役の報酬その他の職務執行の対価として会社から受けまたは受けるべき財産上の利益の額の、営業年度ごとの合計額のうち最も高い額について、代表取締役については6年分、社内取締役については4年分、社外取締役については2年分に相当する額を控除した額を限度として免除することができるとしました。
これは、社外取締役については、優秀な人材を確保する上で必要なこと、また取締役への責任追及を恐れるあまり、経営の萎縮を招くのを防ぐという趣旨があります。
また、監査役についても取締役の責任軽減の規定が準用されています。
最後に
このように、今回の一連のコーポレートガバナンスに関する商法改正が実際上どう機能するかは、新しい制度を導入した企業の動向等により判断されるものです。改正商法が意図した実際効果が得られるかどうかは、まだこれからというところですが、今後の動向には、大いに活用されるところです。
参考文献
「商法改正実務のすべて」 日本経済新聞社