トップマネジメント研修の取り組み

マーケティング本部 越山修

はじめに

人材育成の取り組みが重要であることは、改めて説明するまでもない。中でも業務執行を担うトップマネジメント(ここでは上級管理者を指す)の経営能力は業績に与える影響が極めて大きい。そこで本稿では、ここ数年増加しているトップマネジメントへの能力開発について、その背景と弊社の取り組みについて紹介したい。

バブル崩壊以降、多くの企業が業績の回復に注力するあまり、設備投資を除いた投資を抑えてきた。ところが近年の業績の回復を受け、再び人材投資への機運が高まっている。表1は産労総合研究所 [4]による企業規模による研修の実施状況についての調査である。ここからも従業員数が1000人以上の企業規模において、上級管理者に56.7%が研修を実施すると高い意欲を示していることが読み取れる。現実にも一昨年 (2005年)頃から、外部の研修会場が逼迫し、会場の予約が取りづらい点からもその傾向は明らかであろう。

2006年度の研修費用予算による各種研修の実施状況

このような背景から、多くの企業でこれまで手薄となっていた教育体系の見直しや人事諸制度の再構築が増えている。しかしながら、一度中断された研修の再開や、教育体系の見直しはそう容易ではない。なぜなら教育体系の根底には、図1に示すようなトータル人事制度との整合性が不可欠だからである。そのため中断していた研修の再開や教育体系の見直しには、併せてトータル人事制度の再構築も検討されることが多い。では中断されていた研修を再開するには、どの階層やテーマから手をつけるべきなのか。 人材開発や研修の目的はそれぞれの企業によって様々であるが、弊社では、まずトップマネジメントを対象とした経営力を高める研修を紹介することが多い。人事担当者からは、「なぜトップマネジメント(上級管理者)からなのか、組織の要である中級管理者や初級管理者の方が業績に直結しやすいのではないか」と議論になることも多い。ところが結論として、トップマネジメントへの研修が優先されるのは、トップマネジメントこそ変革の先導者となってもらいたいと考える企業トップが多いからであろう。 近年、組織がフラット化するに従い、トップマネジメントに集まる情報やそれに伴う意思決定のスピードが業績を左右する要因となっている。そのためにも、トップマネジメントが経営的な視点に立った意思決定をするには、個の能力向上が必須となるのである。

また弊社では、対象人数が少ないにも関わらず難易度が高い上位階層(トップマメジメント)研修を推奨している。これは対象人数が多く同一コースを数多く見込める階層を好む他とは志向が異なる点も加えておく。

図1 トータル人事制度

テーマ

図2はトータル人事制度に基づいた研修体系の一例と、トップマネジメント研修の位置づけを表したものである。トップマネジメントの範囲は様々で、役員や執行役員のみを範囲とする場合もあれば、この図のように事業部長までも含める場合もある。

それではトップマネジメント研修では、どんなテーマを選定するべきなのか。Katz, R. L. [1] は管理者に必要能力を図3に示すように「コンセプチュアルスキル(総合判断のできる能力)」、「ヒューマンスキル(人を扱う能力)」、「テクニカルスキル(仕事のやり方についての知識・技能)」に分類し、管理する層によってもスキルの比率が異なると述べた。弊社が提供するトップマネジメント研修のテーマはKatzの理論をもとに、図4のようにコンセプチュアルスキルでは経営戦略やマーケティング、ヒューマンスキルでは人間関係や部下育成などを、テクニカルスキルでは財務(基礎/実践)や経営シミュレーション(ビジネスゲーム)を提供している。

この研修の特徴は、

  • 1.企業トップやキーパーソンにコンサルタントがインタビューを行い、業務上の課題や研修への期待を把握する、
  • 2.インタビューに続いてコンサルタントが講座を一貫して担当し、木目の細かい情報提供をゼミのような雰囲気で進行する、
  • 3.グループワークでは自社または自部門の経営課題を検討し、身につけた理論を実際の課題にまで落とし込む、

点である。

このように本研修は、トップマネジメントが経営力を高めることを目的に、各テーマを二日間にかけて6か月程のプロジェクトで進行する。一例として具体的なスケジュールを図5に、これまでトップマネジメント研修に参加したアンケートを図6に示す。

図2 研修体系およびトップマネジメント研修の位置づけ

図3 管理者に必要なスキル

図4 トップマネジメントに必要なテーマ

おわりに

トップマネジメントを対象とした能力開発とはいうものの、研修効果をいかに測定するかは重要な課題である。一般的な研修の効果測定として、アンケートや事後インタビューなどがある。一方、トップマネジメントへの効果測定も同様にアンケートやインタビューでいいだろうか。またフォローアップはトップマネジメントの上司となる社長に任せるべきだろうか。研修及び人材開発への考え方は各社によって異なるものである。弊社では、それぞれの実情に沿った研修を提供するとともに、併せてフォローアップや組織変革のコンサルティングもラインナップしている。

図5 トップマネジメント研修スケジュール

図6 トップマネジメント研修アンケート

参考文献

[1]Katz, R. L. (1955) Skills of an effective administrator,Harvard Business
Review
, 33(1), 33-42.

[2]楠見孝(1999) 「中間管理職のスキル,知識とその学習(特集 労働者としての中間管理職)」, 『日本労働研究雑誌』, 474, 39-49.

[3]松田憲二(2004) 『成果型賃金制度のつくり方・すすめ方』, 日本能率協会マネジメントセンター.

[4]産労総合研究所(2006) 「教育研修費用の実態調査」, 『企業と人材』, 39, 4-34.

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