現場のルーティンをつくる「たった5つのこと」
株式会社MELコンサルティング 代表取締役会長 安田芳樹
2010年11月の大相撲九州場所が終了して幾日か経過した時、NHKのテレビ番組で横綱白鵬関を取り上げていました。番組は9月場所から11月場所にかけての白鵬を継続して取材するものでした。白鵬にとっては、相撲の神様と言われた横綱双葉山の持つ69連勝を超えるのでは、と期待のかかった場所でした。番組では連勝がストップした日を詳細にレポートし、本場所2日目で敗戦した原因を「ルーティン(流れ)」の乱れと伝えていました。誰もが認める心技体に充実した横綱白鵬も、ルーティンの乱れが致命傷となった瞬間でした。
「ルーティン」とは本来、日常業務という意味合いで使われます。しかし、現場で起きる様々な出来事が本当に「あるべき流れ」になっているのか、という見方に立った時、「徹底」と言うレベルにおいては必ずしも十分ではありません。強い現場をつくることは、「強いルーティン」をつくることです。強いルーティンをつくる5つのルールを確認したいものです。
1.「お客様はいつも正しい」を言動に表わしているか
「お客様の期待やニーズに応えなければならない」という「言葉」は誰もが知っています。また、そうしなければ企業が成長できないことも分かっています。ただ、本当に全ての現場でお客様との「真実の瞬間」としてそれが実践されているかは疑問です。
お客様との間で生じるトラブルやミス・コミュニケーションは、出来れば発生させないことが望まれますが、問題は発生した際のお客様に対する対応です。いかなる場合、場面でも「お客様は正しい」のです。
2.現場を動かすために時間と労力をつぎ込む
「現場の人たちが動かない」という言葉は、経営者がよく言うボヤキです。現場の人の考え方や行動が変わらないのは理由があります。経営トップの指示が分かりづらい、ハード面での条件が整わない、今の業務が忙しくて回らないなどです。もちろん、全ての人がそういう訳ではありません。多くの課題があっても工夫と行動力で乗り切ってしまう人も存在します。ただ、私が感じるに、そうした人達はやはり少数派に過ぎません。多くのメンバーは実際に自分では課題を克服出来ず、行動に移せないのがむしろ「普通」なのです。多くの会社では、今後の会社の方向性や具体的な施策を現場にしっかり説明していないことも多いのです。会社に経営戦略があるのは当たり前、問題はその戦略や取り組み課題を、どれだけ真剣に現場目線で現場のメンバーの隅々にまで伝え、浸透させているかなのです。
3.本当に重要なことを絞り込んで、即実践する
どの会社にも会社を変えていくには何をやらなければいけないか、という戦略的にも重要な課題はいくつかあります。それは決して沢山存在しているのではなく、本当に優先順位の高い項目はいくつか限られています。我々は往々にして一度に多くの課題や事柄に取り組もうとして、結果として上手くいかないことが多いようです。特に、現場では優先順位の判断も難しく、あれもこれもになって結果につながりません。「やったほうがいい事」は沢山あります。でも、「やった方がいい事」は、「やらなくてもいい事」でもあるのです。経営も現場も時間は限られています。大切なことは、本当に重要な課題を「即」実行に移すことなのです。
4.勝つ喜びを知り、勝ちグセをつける
今まで出来ていなかったことが出来た時、あるいは自分なりの改善や工夫が結実して成果につながった時、人は素直に喜びを覚えます。そしてその努力や工夫は本人の成長をもたらし、勝てるコツを感じ取ります。例えそれが実現容易なことであっても、出来なかった(やらなかった)ことが出来るという経験を沢山する(させる)ことが大切です。「こうやればうまくいくんだ」を数多く経験し、連戦連勝の勝ちグセをつけることが「もっと難しいことをやってみよう」という挑戦意欲につながるのです。この挑戦意欲こそが、社員一人一人のモラール(動機づけ)アップを導きます。
5.出来るまで続ける、さらに続ける
必ずしも「基本的なこと=易しいこと」ではありません。仕事には次々と新しいことをこなさなければならないことも多くあります。しかし、基本動作の軽視は禁物です。製造業にも小売業にも、サービス業にも、それぞれどの次元であっても継続し続けなければならないことが「基本」です。ある意味、マンネリを恐れず同じ動作・行動を延々と継続していくことが、会社の底力をつくり出すのです。