押さえておきたい経営分析、その2
〜やさしい決算書の読み方(7)〜

株式会社MELコンサルティング 與田和泉

『やさしい決算書の読み方』シリーズの前回は、「押さえておきたい経営分析」ということで誰でも簡単に出来る、財務諸表を使った経営分析、「安全性の分析」についてお話ししました。今回は、「収益性の分析」についてお話ししたいと思います。今回使う財務諸表は、損益計算書と貸借対照表です。
前回は、「つぶれない」経営ということで、安全性について確認しました。「つぶれない」ことを目的としただけでは企業を経営している価値はありませんし、社会的意義は果たせません。企業は、提供する商品・サービスによってお客様に満足していただき、適正な利益を上げながら成長し続けることが重要です。その結果、企業は獲得した利益から株主に配当金を支払い、社員にはできれば業界の平均以上の給与・賞与を支払いと思うでしょう。いい人材を確保し頑張ってもらいたいとも思うでしょう。また企業が発展していくためには、新商品を開発する費用や新たな設備に資金を投入することも必要です。他にも、企業は様々な社会資本を利用しており、利益から適正な税金を支払う義務があります。そのためには利益が出ることが条件です。良い商品やサービスをお客様に提供して、売上を確保しコストをコントロールして利益を創出します。
日々経営環境が変化する中、皆様は事業計画を達成するために努力されていると思いますが、その努力の結果が利益です。売上もシェアも大事ですが、利益を確保しながら売上やシェアを拡大していくことが求められます。
今回は、「利益に関すること=収益性の分析」についてお話しします。

利益率の分析(売上高利益率)

売上高利益率は、分母に売上高を置き、分子に利益を置きますが、分子にどの利益を置くかで様々な利益率がわかります。これらの利益率は損益計算書と電卓があれば、すぐに計算できます。2回目にお話しした<損益計算書の基本型>を思い出してください。

損益計算書の基本型

損益計算書の基本型

1.売上高総利益率
分母は売上高、分子は「売上総利益」です。
売上から売上原価を引いた利益ですね。売上高総利益率(粗利益率ともいいます)が高ければ、その企業の取り扱っている商品やサービスの魅力が高いということです。
→上記の場合、400÷1,000=40%です。

2.売上高営業利益率
分母は売上高、分子は「営業利益」です。
ここでの利益率は企業の本業での収益力を示しています。ここで利益が出ていないと経営は苦しいですね。売上総利益から人件費や家賃、広告宣伝費や減価償却費などの販売費や管理費を支払ったあとの利益率なので、本業での収益力と言われます。
→上記の場合、100÷1,000=10%です。

3.売上高経常利益率
分母は売上高、分子は「経常利益」です。
営業利益に営業外収益を足し、営業外費用を引いた経常利益の利益率です。企業活動を行うためには日常的に運転資金が必要となります。自前の資金だけでは足りない時は、金融機関から借金をします。当然、支払利息(営業外費用)が発生します。逆に余剰資金があればその運用益(営業外収益)が得られます。預金の受取利息、有価証券の受取配当金や売却益などです。経常利益は、本業プラス財務体質を反映した収益で、その企業の通常の収益力を示すものです。借入金が多いと営業外費用が増えます。営業利益率は良くても、経常利益率が下がってしまいます。売上高経常利益率は企業の総合収益力を見る指標として使われます。経営者は、業績の良否を判断する指標として経常利益を重要視する傾向があります。
→上記の場合、90÷1,000=9%です。

4.売上高当期純利益率
分母は売上高、分子は「当期純利益」です。
経常利益に特別利益を足し、特別損失を引き、さらに法人税等を支払ったあとの企業活動の最終利益である当期純利益の利益率です。当期純利益は企業の利益の蓄積の源泉です。この当期純利益と内部留保している利益剰余金が株主に配当を支払う原資となります。株主や投資家は、投資先の良否を判断する指標として当期純利益を重要視する傾向があります。
→上記の場合、40÷1,000=4%です。

ここまでの、売上高利益率は損益計算書があれば、分子にどの利益を置くかですぐに計算できます。売上高総利益率などは、業種によって相当バラツキがあります。飲食店などは高いでしょうし、家電量販店などはかなり低い利益率といえます。最低でも、それぞれの業界の平均値はクリアしたいですね。また同じ業界でA社もB社も同じ利益額なら、少ない売上で利益を出している企業の方が効率はよいということになりますね。どの利益率も大事です、自社の利益率や、ライバル会社の利益率を計算してみてください。

収益性の分析

1.総資産経常利益率
ここからは、貸借対照表も使って、分析していきます。同じ業種のC社とD社を比較して見ます。貸借対照表のC社の総資産は20億円、D社の総資産は40億円です。C社も、D社も売上高が100億円、経常利益が4億円とします。収益力が高いのは、C社でしょうか、D社でしょうか?

貸借対照表の比較

貸借対照表の総資産は、資金の運用をあらわしていました。つまりどれだけの資金を使って経営活動をしているかということです。どちらも売上高経常利益率は4%です。C社は20億円の資金を使って4億円の経常利益を稼ぎました。D社は40億円の資金を使って4億円の経常利益を稼ぎました。C社とD社では、どちらが効率よく利益を稼いでいるでしょうか。20億円の資金で4億円を稼いだC社の方が、効率よく利益を稼いでいますね。C社がD社より、収益力が高いことが分かります。
同じ経常利益でも、売上高経常利益率だけではどちらの会社が、収益力が高いかは、一概には判断できません。そこで貸借対照表も使って、その企業の収益力を判断します。企業が経営活動に投下している資産で、どれだけの利益を上げたかを見る指標が「総資産経常利益率」です。
総資産経常利益率は、分母に総資産、分子に経常利益を置いて計算します(総資産利益率として分母は総資産、分子は当期純利益を使う場合もあります)。損益計算書と貸借対照表があれば、すぐに計算できます。C社は、4億円÷20億円=20%、D社は、4億円÷40億円=10%です。C社の方が、総資産経常利益率が高く、効率よく利益を稼いでおり、収益性がよいことがわかります。
ROAという言葉を聞いたことがあると思います。ROA(Return On Asset)とは総資産経常利益率のことです。ROAが高いということは、少ない資産を効果的に活用しながら上手な経営で営業成績が良いということで、収益性が高いことを示しています。
総資産経常利益率は売上高経常利益率と総資産回転率に分解できます。

総資産経常利益率

※売上高経常利益率は、売上高に対する経常利益の利益率を示すものです。

売上高経常利益率

→事例の場合、C社もD社も同じ4%です。

※総資産回転率は、事業に投下された資産が1年に何回売上高という形で回転したかを示す数値で、資産が効率的に売上に結びついているかを示すものです。
回転率について少し説明します。例えば、飲食店で座席が30席の場合(一人当りの飲食代は1,000円とする)を考えます。ある1日のお客様が90名の場合、この日は座席が3回転したことになります。売上は90,000円です。また別の日に、お客様が45名の場合、売上は45,000円で、座席は45÷30=1.5回転したということです。同じ30席なら、回転数の多い日の方が売上も増えますし、利益も増えます。飲食店の座席を総資産と考えると総資産の何倍の売上を上げたかを見るのが、総資産回転率です。(売上と変動費・固定費の関係や、損益分岐点売上高の採算性については次回お話しします)

総資産回転率

→事例の場合、C社は100億円÷20億円=5.0回、D社は100億円÷40億円=2.5回となります。総資産回転率は、C社の方がD社より高くなっており、資産を効率的に使って売上を上げていることが分かります。
総資産経常利益率は、売上高経常利益率と総資産回転率を掛け合わせたものです。

総資産経常利益率

売上高経常利益率の売上高と、総資産回転率の売上高を約分すると、総資産経常利益率になります。 C社とD社を比べると、売上高経常利益率は、同じ4%ですが、総資産回転率はC社が5.0回、D社が2.5回となっています。その結果、総資産経常利益率は、C社が20%、D社が10%となります。

2.自己資本利益率:ROE(Return On Equity)
ROA(総資産経常利益率)と似た指標にROE(自己資本利益率)があります。

自己資本利益率

株主が投下した資本が効率的に利益を生み出しているかを見る指標です。株主は企業が破綻すれば、その出資した株券は、ただの紙切れとなり元本を失うリスクを抱えています。株主は投下した資金を「1.配当で回収する」、「2.値上がり時に売却して回収する」ことを考えます。業績が良くROEが高ければ、配当が増え、株価が上がる可能性が高くなります。業績が悪ければ、配当もなく、株価も購入時の価格を下回っている可能性が高くなります。自己資本利益率は分母に自己資本(=純資産)、分子に当期純利益を置いて計算します。利益に当期純利益を使うのは、税金を支払ったあとの当期純利益と過去の利益の蓄積である利益剰余金が配当の原資となるからです。ROAと一緒に覚えておいてください。
事例のC社とD社の自己資本利益率は、共に2億÷10億=20%です。自己資本利益率を高めるには、当期純利益を多くするか、自己資本(=純資産)を減らせば高くなります。しかし、自己資本が少なくなると自己資本比率が下がり、安全性が低くなります。このC社とD社の自己資本比率は、どうなっているでしょうか。C社は10億÷20億=50%ですが、D社は10億÷40億=25%となります。自己資本比率の安全性では、D社よりC社の方が安全であることが分かります。
株主の関心が高い自己資本利益率を高くするために、分母である自己資本を減らしたら同じ利益でもROEは高くなります。しかし、自己資本を減らしたために自己資本比率が下がり安全性が低くなっては本末転倒ですね。

今回は、収益性の分析についてお話ししました。いろいろな経営分析の指標はありますが、自社の置かれた状況で今一番改善しなければならないことは何か?を考えながら経営分析をしてみてはいかがでしょうか。 次回も「押さえておきたい経営分析」の続き、損益分岐点売上の分析についてお届けする予定です。お楽しみに。

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