人事理念の構築と展開
第4回:人事理念と組織風土

常務取締役 山中宏美

 「人事理念の構築と展開」の内容 

はじめに

人事理念の構築と展開について述べてきた本シリーズも今回で最終回となる。
今回は、まず、人事理念浸透におけるグループ・集団から発生する抵抗問題について整理をしてから、次に、従業員の行動内容とかかわりの深い組織風土(組織文化)と人事理念との関連について述べてみたい。

1.グループ・集団からの抵抗

どんなに素晴らしい人事理念が設定されても、必ず組織内部から抵抗が生じることは前回述べた。全社員が同じ立場、同じレベル、同じ価値観を持っていれば別であるが、もともと他人集団である企業が故に避けて通れない問題である。グループ・集団からの抵抗発生原因は、大きく分けて2つある。

  • (1)新しい理念の浸透がグループ・集団の権限や影響力を侵食すると思われる時
  • (2)グループ・集団が受け入れていたこれまでの価値観と習慣を大きく否定する時

企業のグループ・集団は、自分のグループの存在価値・存在理由を確立したり高めるために、グループで力を合わせたり・抵抗したりするものであるといわれている。このような理由で、自グループの存在が危うくなると感じるとグループ内外での抵抗が発生する。そのようにならないためには、全社の観点に立った人事理念の正統性と必要性ならびにグループに及ぼすプラス・マイナス面の内容を事前に理解させることが重要である。

2.人事理念と組織風土

人事理念の浸透を考える時、企業の組織風土を抜きにしては語れない。組織風土の構成要素は次の3点だと言われている。

組織風土の構成要素

人事理念は、組織の価値観そのものであるから、組織風土に大きな影響を与えるはずである。そして、判断のベースであるパラダイムにも関連し、全従業員の行動の枠を決める行動規範につながっている。従って、人事理念の浸透は、イコール組織風土の変革であり醸成そのものである。故に、組織風土とかけ離れた人事理念の設定と浸透を行う場合は、大変なエネルギーが必要とされることになる。

3.人事理念の浸透で組織風土を変革する

人事理念の浸透によって組織風土を変革し、企業にとって好ましい習慣のある会社にするにはどうしたらよいか。
組織風土の変革は、簡単に言うと「価値観・判断基準の統一をはかり、とるべき行動の表示を行うこと」である。従って、好ましい価値観を浸透し、行動内容と行動基準のレベルを明確にし、コミュニケーションの仕方を変えればよい。
組織風土変革の課題は、人事理念の変更であり、行動内容と行動基準のレベルの変更である。加えてコミュニケーションの仕方を変えること、つまり、情報共有のあり方を変えることと、各自のコミュニケーション能力を高める教育を実施することである。
このように考えてみると、人事理念浸透のプロセスと組織風土変革のプロセスは同じことであると思われる。だから、新しい人事理念の浸透をはかることによって、その理念にあった好ましい組織風土が出来上がってくると言える。

4.人材育成=風土醸成

人事理念浸透における教育は、組織風土の醸成の点からも重要である。教育的アプローチを通じて新しく好ましい価値観を徹底して教え続け、その結果、多くの従業員が好ましい行動を取ることができるようになり、新しい組織風土が根付いていく。つまり、「人事理念の浸透=人材育成=風土の醸成」ということが成り立つ。これらを成し遂げるためにもっとも大切な事は「繰り返しとそれを継続する執念」である。特に経営トップ層が不退転の決意で取り組む姿勢と行動が必要である。

5.おわりに

このシリーズで、

  • 人事理念の必要性
  • 人事理念の制度的アプローチによる浸透
  • 人事理念の教育的アプローチによる浸透
  • 人事理念の浸透過程における評価・振りかえりと発生する抵抗に対する対処
  • 人事理念の浸透と組織風土の関係

等について述べてきた。
本シリーズで筆者が特に言いたかった事を要約してみたい。
会社としての根本的な考え方である人事理念を全従業員の日々の業務における行動内容に反映させていくことは、大変な時間とエネルギーを必要とする。制度的なアプローチは、仕組み作りそのものに半年から1年間の時間がかかり、効果が現れるまでには2〜3年の歳月がかかる。
教育的アプローチは、中小企業では全社員に教える時間はそれほどかからないが、中堅・大企業になると大変な時間がかかる。また、OJTによる浸透は日常業務における繰り返しであり、これにも相当な時間を要する。このような理由から効果・結果が出るまでには時間がかかるわけであるから、できる限り早く取り掛かり、そして挫折することなく継続することが重要である。

最後に、中小企業においてはまだまだ人事理念を設定しているところが少ないと感じる。経営者と人事理念について話をしていると、従業員に対する考え方・思いが言葉としてはいくらでも出てくるが、それを明文化しているところは少ない。また、制度化したり教育計画を作成して、そこに盛り込み、実施しているところはさらに少ない。是非、今後の経営の柱の一つとして人事理念が設定され、その浸透に取り掛かれることをお勧めしたい。

人事戦略・人事制度構築コンサルティング

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